●事例(1)横浜地方裁判所 平成13年1月23日判決


事例


自宅前の公道にたっていたところ、近づいてきた犬に突然吠えられため、転倒して左下腿骨を骨折した。その犬の飼い主が、被害者から、治療費、8ヶ月の休業損害、慰謝料200万円、弁護士費用55万円など、合計610万円の損害賠償を求められた。


飼い主の主張


1. 被害者が転倒したことと、犬が吠えたことは無関係。


2. 散歩中に犬が吠えさせないという飼い主の注意義務はない。


3. 被害者がポールにつかまりながらも、転倒して大腿骨骨折をしたのは、もともと足が弱かったためである。被害者が足が弱いということは、飼い主には予見できない。


4. 被害者は足が悪く、身体障害者等級4級の認定を受けており、自分が転倒すれば重大な結果になることがわかっていたのに、往来の激しい公道に立っていたのだから、被害者側の過失も認められるべきだ。


判決


1. 被害者の転倒と犬が吠えたことの間には、因果関係がある。


2. 犬の飼い主には、犬がみだりに吠えないように犬を調教すべき、注意義務がある。


3. 特に、犬を散歩に連れ出す場合には、飼い主は、公道を歩いている人、あるいは立っている人に対して、犬がみだりに吠えないように、飼い犬を調教すべき、義務を負っている。


4. 老人の場合、犬の吠え声にびっくりして転倒することは、通常、予見できる。


5. 被害者がもともと足が悪いとしても、公道に出て外気を吸うことは、人間としての自由権の範囲内のことである。しかも、被害者はミラーポールを握り、杖をついていたことから、被害者に過失はない。


6. 被害者が身体障害者であったことから、損害額を2割減額して、既払い額を除いた432万円の損害賠償を認める。