●事例(2)横浜地方裁判所 昭和61年2月18日判決


事案


隣人が飼っているシェパードの鳴き声に悩まされ、不眠・食欲不振などの神経衰弱状態になったとして、隣家の夫婦が慰謝料の支払いを求めた。


被告である飼い主の主張


1. 隣家の夫婦は、おおげさに神経衰弱になったなどと主張しているが、犬の鳴き声との因果関係はない。


2. 7~8メートルの針金を張って、犬が鎖につながれたままでも移動できるようにすることで、運動不足を解消して、無用の鳴き声をあげないように十分に注意している。


3. 祖父の代から犬、猫、にわとり、うさぎ、やぎなどの家畜を飼っており、そのような状況を知っていながら、隣に引越してきたのだから、夫婦は自ら危険に近づいてきた者であり、犬の鳴き声をがまんするべき(危険への接近の法理)である。


判決


1. 隣家の夫婦の神経衰弱と犬の鳴き声には因果関係がある。


2. 犬の運動は、人が一緒に行うことが訓練にもなり、必要なのであって、係留ロープにつないでおくことは、ロープの長さに応じて犬が動けるとしても、犬にとって好ましいことではなく、かえってよく吠えるようになったと認められることから、被告が注意義務を尽くしたとは言えない。


3.犬が飼われていて、犬が鳴いているのを知りながら、引越してきた隣家の夫婦には、引越し後に特に鳴き声が増加したというようなことがない限り、がまんすべきところはあるが、このシェパードの鳴き声の状態は異常であり、被告は慰謝料の支払いをしなければならない。