●「動愛法」と「動物保護法」の違い


日本では、動物を虐待せず適性に飼養することが社会における「大切な倫理」あるいは「尊敬すべき技術」といった認識が育っていません。そのため、「広く国民に動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深める」ための啓蒙が必要であるとの考え方から、「動物愛護」という情緒的な言葉が使われています。


欧米の法律では、「動物保護」という客観的な言葉を使って、産業動物や実験動物の取扱いにまで、動物の福祉の観点から厳しい規制を加えています。


西欧の動物保護法は、イギリスで誕生して、フランスで発展し、ドイツで体系化されたと言われます。西欧では、馬をメインとする使役動物の保護から出発したため、畜産動物や実験動物の保護を充実してきました。西欧の動物保護の考え方は、畜産と動物使役の長い歴史を背景にした、職業的な倫理感に根ざしています。


「ドイツの法律」


ドイツでは、ナチス政権下の1933年に「動物保護法」(15条文)が制定されました。


第1章 動物の虐待を禁止する


動物を不必要にさいなんだり、粗暴に虐待すること

動物に対して永続的な苦痛や反復的な苦痛を与えること

動物保護のための諸規定(禁止事項)飼育されている動物の世話を怠り、苦痛を与えること

過重な荷物を負わせること映画撮影などに使用して苦しめること

生きたネコなどを攻撃するようにイヌを訓練すること

生後2週間を超えたイヌに麻酔なしで断耳や断尾を行うこと

生きた動物への実験動物実験の実施には、内務大臣の許可が必要

実験にあたっての遵守事項

第4章 刑罰規定

動物虐待者には2年以下の拘禁または罰金が科される

許可なく動物実験を行った者には6月以下の拘禁または罰金が科される

諸禁止事項を故意または過失で破った者には罰金と拘留が科される


その後、4回の改正を経て、1993年に現行のドイツ動物保護法の形になりました


第1章「基本原則」


第2章「動物保有」


第3章「動物の殺処分


第4章「動物に対する手術」


第5章「動物実験」


第6章「専門教育、補充教育、再教育のための手術と処置」


第7章「物質、生産物、有機体の製造、獲得、保存、増殖のための手術と処置」


第8章「繁殖、動物保有、動物の取引」


第9章「持込み禁止、取引禁止、保有禁止」


第10章「動物保護のためのその他の規定」


第11章「法律の施行」


第12章「刑罰規定及び過料規定」


第13章「経過規定と最終規定」


現在のドイツの動物保護法の根幹をなしているのが、「基本原則(第1条)」で示されている考え方で、「同じ被造物としての動物に対する人間の責任に基づき、動物の生命と福祉を保護することにある。何人も、合理的な理由なしに、動物に対して、苦痛、苦しみ、または傷害を与えてはならない。」というものです。


新しく付け加えられた「同じ被造物としての動物に対する人間の責任」という部分に、ドイツの動物保護法が前提とする「動物観」や「キリスト教的な世界観」が表されているとされます。


それは、動物を治めるように神から運命づけられた人間が、「支配者としてもたなければならない責任」を法で定めたと考えられるのです。このような考え方は、しかし、かつて「動物は自動機械である」あるいは、「人間は動物に対しては圧倒的な支配者であり、人間だけが感覚を持つ存在だ」とした人間中心的な世界観への反省が含まれているのではないかと指摘されています。


ドイツの民法の条例では、「動物は物ではない」とする規定があります。動物は物ではない。動物は特別の法律によって保護される。動物については、物についての規定を、他に規定がないかぎり準用する。


動物の治療にかかった費用は、その動物の価値を著しく超えるものでも、不相当なものとは言えない。従って、賠償の対象となる。


動物の所有者は、動物保護に関する規定を遵守すべき。


非営利目的で家庭内で飼育されている動物は、原則として差し押さえできない。


具体的な犬の飼い方については、例えば次のようなものがある。


●室外で犬をつないで飼う場合には、リードは6メートル以上の長さがあるもので、両側に2.5メートル以上の行動範囲を確保する


●犬に苦痛を与えるような環境下で、14時間以上、屋外につないでおくことを禁止する


●犬舎は、犬が普通に立ったり、横になったり、自由に向きを変えられるような広さがあること。その大きさは、最低、幅80センチ、高さ80センチ、奥行き120センチとする。


「イギリスの法律」


●子犬をペットショップのショーウィンドウなどで展示販売することを禁止する


●12歳未満の子どもに犬を販売してはいけない


●毎日1~2回、栄養のある食餌を与えなければいけない


●狂犬病の予防接種、ジステンパー、パルボウィルスなどの感染症予防ワクチン接種、フィラリア症の予防を定期的に行わなければならない。


「日本の法律」


日本の動愛法は、同じく使役動物の牛馬の保護が出発点でしたが、畜産動物や実験動物の保護は対象外とされ、主にペット動物(イヌやネコ)の保護を目的としたものになりました。


改正動愛法でも、動物取扱業に含まれるものは、ペットショップやブリーダーであり、畜産農家や実験動物を扱う施設などは規制外に置かれています。


日本では、法律上は、動物は伝統的に「モノ」とされてきました。


生き物である動物をモノ扱いすることには違和感を感じるという人が多いにもかかわらず、民事法では、動物は飼い主である人間が所有権をもつ「動産」であり、刑事法では、窃盗罪や器物損壊罪の対象になる「財物」なのです。


しかしながら、西欧諸国の動物保護法や民法が、動物はたんなる「モノ」ではないとしていることから、将来的には日本の法律もそのような考え方に追随するものと考えられます。


環境省が述べている「動物愛護」についての考え方をまとめると次のようになるでしょう。


動物の愛護とは、動物の取扱いに、その生命に対する感謝と畏敬の念を反映させることです。自然資源をかしこく利用する-WISE USE-のひとつの考え方でもあります。


しかし、動物愛護とは、動物の命と人の命を対等に扱おうとする考え方ではありません。人間は他の動物の生命を犠牲にしなければ生きていけないことから、動物を殺すことや利用することを否定できません。しかし、犠牲にすることを当然のこととして、動物の命を軽視してはならないと考えるものです。


動物に対して人が抱く意識や感情は、絶対的、固定的なものではありません。


人、地域、時代によって変化するものです。そのため、動物愛護の基本的な考え方は、多様性があり、流動的なものです。ですから、その理念の構築には、日本の風土や国民性といったものが考慮されなければなりません。


平成15年の世論調査では、国民の3人に1人は動物を飼うことがきらいという結果が出ています。また、「動物を飼う」ことは、個人的な趣味や嗜好と捉えられがちなので、「動物愛護」と言っても、万人に適用される社会的規範としては受け入れられにくいのです。


動物愛護は、国民の間に共通した理解が形づくられなければ、進みません。国民の間に動物を愛護する気風を育み、そして生命尊重、友愛、平和を尊ぶ情操へと発展させるためにも、多くの国民の共感を呼び、自主的な参加を幅広く展開する必要があります。