ペットトラブルの裁判


騒音や振動、悪臭などで他人に不快感を与えることを「ニューサンス」と言い、「犬の鳴き声」、「悪臭」、「不衛生」がペットトラブルの御三家と言われています。


犬の鳴き声を騒音公害とする訴訟では、飼い主は犬の鳴き方が異常なものとなって、近隣の者に迷惑を及ぼさないよう、飼育上の注意義務を負うとの判断から、2005年4月の名古屋高等裁判所での裁判では、飼い主に対して「犬の飼育禁止」と「損害賠償132万円の支払い」という判決が出されています。


社会生活においては、常識の範囲内の騒音に対しては、お互いにがまんをしようという「受忍義務」と言う考え方があって、がまんしなければならない程度を「受忍限度」と呼びます。


これまでは、この「受忍限度」を超える犬の鳴き声による損害賠償(慰謝料)は30万円程度だったのですが、この裁判では、マンションの階上の犬の鳴き声で階下の住人が慢性的な睡眠不足に陥るなど、大きな精神的苦痛を負ったと判断されたことから、高額の損害賠償となったのです。


ペット可のマンションでも、受忍限度を超えるような被害を与えたと判断されれば、その飼い主に対して被害者である居住者は損害賠償を請求できるのだということを念頭に入れて、マナーを守ってペットを飼わなければならないのです。


たとえ、飼育者が「自分は周りに迷惑はかけていない」と思っていても、「近くに動物がいるだけで寒気がする」という住民にとっては相当の「不利益を被った」ことになり、訴えられた飼い主がペットを手放すか、引っ越すかの選択を迫られることになります


「横浜ペット裁判」(東京高裁の判決の要約)


「ペットの飼育は、他の住人に影響を及ぼすおそれがあるので、それを禁止する規約は有効である。具体的に他の住人に迷惑をかけたかどうかにかかわらず、規約に反して犬を飼うことは、マンション住民の『共同の利益に反する行為』にあたる。ペット飼育が、飼い主の生活・生存に不可欠のものではない。」


このマンションでは、飼い主が入居した時には「ペット禁止」の規約はありませんでした。しかし、管理組合の臨時総会が開催されて、ペット禁止を盛り込んだ新規約が決められたのです。


裁判所には、飼い主を支援する9万人以上の署名、動物愛護団体や獣医師会など85団体、英国王立動物虐待防止協会、米国動物虐待防止協会などからの請願書が送られました。しかし、裁判所は、「人が動物を飼う権利」よりも「規約に従うべし」との判決を出したのです。


この裁判の背景と経緯は、訴えられた飼い主の根元寛氏の著書、「マンションで犬と暮らす幸福」WAVE出版(2001年3月)に詳しく書かれています。


裁判で負けた根元氏は、愛犬のビーグル「ビッキー」を手放すことになりました。もらってくれた方が大切にしてくれて、ビッキーは幸せに暮らし、16歳7ヶ月の天寿を全うしたそうです