犬とその飼い主の地域社会への同化


「人と動物との調和のとれた共生社会の実現を目差して」と謳っている「東京都動物の愛護及び管理に関する条例」は、その改正の必要性について次のように述べています。


近年、動物は、飼い主にとって単なるペットとしてでなく、飼い主の生活の一部としてなくてはならない存在となっている。また、動物は飼い主との関係だけではなく、地域社会にも関わりを持っている。しかし、一方では、動物への正しい理解の不足から、動物にとっても、飼い主や地域の人々にとっても好ましくない事例が起きている。そこで、動物が命あるものであることを再認識し、人と動物との調和のとれた共生社会の実現をめざし、条例の一部を改正しました。


人と動物との調和のとれた共生社会とは、


1. 飼い主が命ある動物を適正に飼養し、

2. 動物の存在が地域の人々により受け入れられ、

3. 地域の人々の間に生命尊重や友愛の気風がいきわたっている社会をいう。


そして、東京都動物の愛護及び管理に関する条例に、飼い主の責務と飼い主になろうとする者の責務を次のように定めています。


(飼い主の責務)


第6条


1. 飼い主は、動物の本能、習性等を理解するとともに、命あるものである動物の飼い主としての責任を十分に自覚して、動物を適正に飼養するよう努めなければならない。


2. 飼い主は、周辺環境に配慮し、近隣住民の理解が得られるよう心がけ、もって人と動物が共生できる環境づくりに努めなければならない。


3. 動物の所有者は、動物がみだりに繁殖してこれに適正な飼養を受ける機会を与えることが困難となるようなおそれがあると認める場合には、その繁殖を防止するため、生殖を不能にする手術その他の措置をするよう努めなければならない。


4.動物の所有者は、動物を終生飼養するよう努めなければならない。


5.動物の所有者は、動物を終生にわたり飼養することが困難になった場合には、新たな飼い主を見つけるように努めなければならない。


(飼い主になろうとする者の責務)


第6条の2


飼い主になろうとする者は、動物の本能、習性等を理解し、飼養の目的、環境等に適した動物を選ぶように努めなければならない。


(動物飼養の遵守事項)


第7条


飼い主は、動物を適正に飼養するため、次に掲げる事項を守らなければならない。


1.適正にえさ及び水を与えること。


2.人と動物の共通感染症に関する正しい知識を持ち、感染症の予防に注意を払うこと。


3.動物の健康状態を把握し、異常を認めた場合には、必要な措置を講ずること。


4. 適正に飼養できる施設を設けること。


5. 汚物及び汚水を適正に処理し、施設の内外を常に清潔にすること。


6. 公共の場所並びに他人の土地及び物件を不潔にし、又は損傷させないこと。


7. 異常な鳴き声、体臭、羽毛等により人に迷惑をかけないこと。


8. 逸走した場合は、自ら捜索し、収容すること。


(犬の飼い主の遵守事項)


第9条


犬の飼い主は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。


1.犬を逸走させないため、犬をさく、おりその他の囲いの中で飼養し、又は人の生命若しくは身体に危害を加えるおそれのない場所において、固定した物に綱若しくは鎖で確実につないで飼養すること。


2.ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りではない。2.警察犬、盲導犬等をその目的のために使用する場合


3.犬を制御できる者が、人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場所並びに方法で犬を訓練する場合


4.犬を制御できる者が、犬を綱、鎖等で確実に保持して、移動させ、又は運動させる場合


5.その他逸走又は人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場合で、規則で定めるとき。


6.犬をその種類、健康状態等に応じて、適正に運動させること。


7.犬に適切なしつけを施すこと。


8.犬を飼養している旨の標識を、施設等のある土地又は建物の出入口付近の外部から見やすい箇所に掲示しておくこと。


人間社会で暮らす動物、いわゆるペットの犬が原因で起こるトラブルは、「飼い主が意識やマナーを向上させることで未然に防げたはず」ということが多いのです。

つまり、飼い主が日頃から「ちょっとした気づかい」をしていれば、深刻なトラブルには発展しなかったということなのです。


飼い主にとって、かわいがっている愛犬は家族の一員ですが、日本の法律では、犬は動産、つまり「モノ」なのです。


飼い主がいくら「この子は家族です」と訴えたとしても、飼い主が「しっかりしつけをしているから、他の住民に迷惑はかけない」と考えていても、他の人が不快に感じて、訴えを起こした場合、これまでの判例では全て、犬の飼育禁止や損害賠償の請求、さらに厳しい場合には退去命令など、飼い主にとって厳しい判決が出ています。


オス犬が他所の家の門柱にマーキングしたら、おしっこをかけられた家の人は穏かな気持ちではいられないでしょうし、「犬は吠えるのが仕事だから」などと考える飼い主がいたら、近隣の人たちから「騒音公害」と非難されることになります。近隣の人たちに迷惑をかけないように、飼い主自身も愛犬も人間社会のルールを守っていくようにしなければならないのです。


犬は、人間社会では「物」として所有されるものです。犬が人間とともに暮らし、人間に心の安らぎをもたらす生き物であっても、法律的には「物」であり、日本の民法では、その86条で「動産」として位置づけられています。


犬がどのように生きるかといった基本的なルールはすべて人間が決めるもので、犬は単にそのルールの客体という存在です。


人間には憲法上の基本的人権が保証されていますが、犬が法律上で権利や義務の主体になることはありません。主体になるのは、犬を所有している飼い主で、犬は間接的に法的な保護を受けられるだけなのです。


つまり、犬が人間に飼われるということは、人間社会の法律、日本の法律では、犬が人間に所有され、物理的にも経済的にも全て支配される存在になるということです。


したがって、飼い主である人間は、「法令の制限内において自由にその所有物を使用、収益及び処分することができる」(民法206条)ことになります。


民法では、自分の好きな犬を自由に飼うことができ、その飼い方も制限されない人間も、動愛法の規定で、飼い主として犬に対して責任を負うこと、社会に対して責任を負うことが決められています。