犬の遺伝的習性


習性という面でも、犬はオオカミとの共通点をたくさん持っています。オスが足を上げておしっこをかける「マーキング」や、「遠吠え」、「縄張り意識」などです。


集団で狩りをしながら生活をする「群れ社会の一員としての習性」もそうです。その習性を利用すれば、人間社会、あるいは家族の中にうまく溶け込ませることができます。


教え込もうとするのではなく、犬の習性を理解したうえで、適切な時期に適切な教え方をすることが大切だと言われます。


しかし、犬という種全体に共通する基本的な習性はありますが、犬種の多様化にともなって行動や心理に違いがあること、そして、同じ犬種であっても個体差があることを理解しておきましょう。



●優位性行動と服従性行動


オオカミの群れ社会で、最も重要なのは互いの優位関係です。食物や寝ぐら、交配相手などの生存に大切な資源を取り合って、群れの中に抗争が起こらないようにするためです。


受動的服従行動 :


あおむけに寝て、後ろ足を開いて、陰部を露出する。これは、子犬が母犬に陰部をなめてもらって排泄をうながしてもらう行動に起因しているとされます。



積極的服従行動 :


人の顔や口元をなめる。子犬が母犬に食物をねだる行動に起因しているとされます。


なかには家族より自分の方が優位だとみなす犬がいます。このような犬は、飼い主や家族が自分への挑戦だとみなすような行為をした時に、攻撃的な行動=優位性攻撃を行います。


これまでは、犬は人間の家族を自分の群れとみなして、普通は飼い主や家族を自分より優位ととらえて、服従性行動をとると考えられていましたが、最近、犬は種の違う人間を自分が属する群れの仲間としてとらえているわけではないという意見が出されました。


犬は、飼い主を自分にえさをくれて、安全を約束してくれる母親、あるいは保護者ととらえているというものです。犬を甘やかす飼い主に対して、犬は頼りにならないと感じて、自分で守ろうとする行為が好ましくない行動として現れるのだという考え方です。


オオカミの群れは、眠るときも互いに離れすぎず、数メートルくらいの間隔で横になります。家庭で飼われている犬は、飼い主が近くにいれば、精神的に落ち着きます。それも、保護者と一緒にいる安心感なのでしょう。



●捕食性行動


犬が猫や小鳥、あるいは投げられたボール、走っている人や自転車など動くものを追いかけるのは、狩りをしていたころのオオカミの捕食性行動を受け継いだものです。フリスビー競技は、この行動特性を利用した犬と飼い主のコミュニケーション・ゲームです。


●なわばり性行動


オオカミは寝ぐらの周りになわばりを持っていて、そこに侵入してくるものを撃退しようとします。同じように、犬も自分の家や庭をなわばりとみなしていて、そこに近づく家族以外の人間などを撃退しようとするのです。


●排泄行動


オオカミは巣穴を汚さないように、離れたところで排泄する習性を持っています。同じように、子犬は自分で動き回れるようになると、自分の寝場所を汚さないように、できるだけ遠くで排泄しようとします。


トイレ・トレーニングで、寝床になるクレート(ケージ)から少し離れた場所にトイレ・スペースを用意しておいて、自然にそこで排泄するように仕向けるのは、この習性を利用したものです。



●繁殖行動


犬は生後6~10ヶ月で性成熟を迎え、雄犬は片足を上げて排尿するようになり、雌犬は発情期出血が見られます。雄犬が少量の尿をひんぱんにかけることを、「尿マーキング」と呼び、尿に含まれる生化学物質で、自分のなわばりを示したり、雌犬やライバルの雄犬に自分の存在を知らせていると言われます。


人間の足などに犬がマウンティングして腰をゆする行為は、好ましくない性行動とされますが、子犬では、必ずしも性行動ではなく、遊びの行動の場合もあります。騒いだり、興奮をあおったりして助長させないようにします。


●母性行動


母犬は生まれたばかりの子犬の陰部をなめて刺激を与えて、排泄をうながします。また、子犬の排泄物を食べてしまいます。子犬の食糞行動は、この経験に起因しているとも言われます。


●探索行動


犬にとって、散歩はこの探索行動にあたるもので、好奇心を満足させる機会です。すぐれた嗅覚とこの探索行動の特性を利用しているのが、警察犬や救助犬、麻薬探知犬などです。


●遊び行動


とっくみあいやかみつきあいなどの犬どうしの遊びでは、噛む力を加減してケガをさせないようにしたり、遊びだとわかる表情やしぐさが見られます。社会化期の子犬にとって、遊びを通じての犬どうしの接触は、とても大切なものになります。


子犬は目につくものを触ったり、口に入れたりして調べます。そうやって遊ぶ時の対象になるものは、獲物の代わりにもなり、獲物を捕らえるという行動の発達をうながします。


このような探索や遊びの衝動があるおかげで、子犬は自分をとりまく世界に目覚め、まわりの環境に対応するための必要な体験を積んでいけるのです