ペット心理療法士
「ペット心理療法士・事件ファイル」 
新田一実著 小学館パレット文庫


図書館のヤングライブラリーコーナーで、なぜか目に入ってきたこのタイトル。里見敦子さんと後藤恵理子さんという二人の女性作家による共同執筆ということで、新田一実はお二人共有のペンネームのようです。ふれこみは、猫5匹との暮らしから生まれた「痛快ヒーリングファンタジー」。


犬や猫と話ができるようになったことから、事件が解決されるという筋書きです。ペット心理療法士というよりも、アニマルコミュニケーターの方が呼び方としては、しっくりするかもしれません。漫然と読んでいると、人がしゃべっているのか、動物がしゃべているのか、わからなくなってしまいます。


私たちが、日頃ペットに話しかけるのは、その内容を理解させようとしているわけではありません。ペットに話しかけるのは、それが実は自分自身に話しかける行為なので、結果として、自らが自らを癒すことになるからです。そう考えると、ペットが私たちの言葉を指示語として以上に理解するようになったり、人と同じように意見を述べたりするのは、何だか煩わしいような気もします。


ペットを好む理由として、「ムダ話をしない」、「ひみつをしゃべらない」ということを挙げる人もいるので、「動物の思いが何となくわかってしまう」という程度の方が良いのかもしれません。


文中では、動物の言葉がわかるツールとして、ソロモンの指輪、聞き耳頭巾、バウリンガルなどが挙げられています。巻末には、動物とコミュニケートできる能力を備えた人として、ドリトル先生が紹介されています。


ペットともっとコミュニケーションがとれたらと望む気持ちがないわけではありませんが、言葉をしゃべれないからこそ、「最高の相手」なのです。


「イヌネコにしか心を開けない人たち」(幻冬舎新書)で、精神科医の香山リカさんは、次のように述べています。


現代人の「心のすきま」をもたらしている三つ目の要因として考えらるのは、「言葉によるストレス」である。(中略)


ほかの意味に解釈するのがむずかしい傷つく言葉、落ち込む言葉にさらされ、疲れきっている人たちは、無意識ながら「言葉のない世界に行きたい」と思っていることもある。(中略)


そういう人たちにとって、言葉は話さないが、あたかも言葉を一部、理解しているように反応してくれるイヌやネコが、最高のコミュニケーションの相手であることは間違いない。彼らは「話さないからこそ、そして「話さないがそれなりに反応があるからこそ」、人間にとって都合がよいのである。


イヌネコにしか心を開けない人たち