それは「危険運転致死傷罪」が適用されるかどうかで、世間の注目を集めた裁判でした。車を運転していた加害者Aさん(女性、40歳)は、長年にわたって無事故無違反の、もちろん酒気帯びで車を運転するようなことは決してしない模範的な優良運転者でした。


そんなAさんが起こしてしまった重大な交通事故には彼女の愛犬が関係していて、それを危険運転とみなすかどうかが問われる裁判になっていたのです。


その日、Aさんは愛犬をなじみのトリミングサロンに連れていくために車を走らせていました。愛犬はいつものように助手席の窓から首を出して、気持ち良さそうに風を受けながら、流れる景色を眺めていました。愛犬が車酔いしやすいので、換気のために窓を開けていたのが、いつの頃からか窓から首を出すようになっていたのです。


もうまもなく目的地というところまで来た時、前方右手に散歩中の犬の姿が見えました。Aさんはちょっと嫌な予感がしました。愛犬は車に乗っていたり、抱かれていたりするとなぜか他の犬に激しく吠えかかる癖があったからです。


案の定、窓から犬の姿を発見した愛犬は興奮した様子で吠え出して、さらに運転席のAさんのひざに飛び乗って、車の右側に見える犬に向かってワンワンと吠えかかったのです。


愛犬を窓から引き離そうとしたAさん、ところが勢いあまって、犬はなんと足元の運転席の床に落ちてしまったのです。あわてたAさんはブレーキをかけようとしましたが、犬の体がじゃまになってブレーキペダルを踏むことができません。頭が真っ白になったAさんの目の前には、横断歩道を渡っている小学生の列が・・・・・。


実は、この話は架空のものなのです。でも、現実に起こってしまうことは十分に考えられます。街中だけではなく、高速道路でも、走行中の車の窓から首を出している犬の姿を見かけることは少なくありませんし、犬連れでドライブする時には、ほとんどの人は犬を抱っこしたり、車内に放しています。


大型犬の場合には、荷物スペースのケージに入れている人も多いのですが、中型犬、小型犬ではほとんどの場合、車内野放し状態なのです。窓から首を出していた犬がカーブで車外に放り出されたという事故は実際に起こっていますから、この話のようなことも現実に起こらないとは言い切れません。


愛犬を守るためだけではなく、ハンドルを握る者の責任として、ドライブする時には犬をキャリーバックやケージに入れるといったことが求められるのです。


追記


2008年12月、埼玉県所沢市で下校中の小学生の列に車が突っ込んで、5人が死傷する事故が発生しました。


63歳の女性が車内の犬に気をとられ、ハンドル操作を誤った可能性があるとの報道でした。