犬は、人間に飼われるようになってから雑食性になったと言われていますが、ご先祖はオオカミですから本来は肉食です。肉食獣のオオカミにとって、主たる栄養源はたんぱく質とミネラル類で、それに脂肪や炭水化物を少々摂れれば良いので、自然な食餌となると、例えば、まるごと一匹のウサギと言うことになります。毛皮からは繊維質、内臓や筋肉、骨からはタンパク質や脂肪分、血からは塩分、そして内臓からはビタミン類やミネラル分を吸収することができます。
犬は、どんな食物でもかみ砕いたら、すぐに飲み込んでしまいます。ゆっくりと口のなかで食べ物をよく噛む、つまり、咀嚼(そしゃく)することをしません。そんな食べ方もオオカミから受け継いだものです。狩りをする肉食獣は、いつでも獲物にありつけるとは限らないため、食いだめできる丈夫で大きな胃袋を持っています。犬の胃も通常の5倍ぐらいに膨らんで、食べ物を詰め込むことができるのです。
胃では強力なたんぱく質分解酵素が分泌されていて、食べ物はその分解酵素と胃の収縮運動で消化されます。また、胃液の酸性がとても強く、菌を殺してしまうので、腐りかけた肉を食べても食中毒になることはほとんどありません。
肉には植物にある固い繊維質がありませんから、口の中で細かく噛み砕く必要がなく、丸のみするように胃に送り込んでも、消化できます。このような単純な食習慣のため、犬には味覚神経が発達しなかったと言われます。
味を感じるのは、舌の前方2/3にある味蕾(みらい)と呼ばれる器官ですが、犬のこの器官は草食動物に比べると発達していません。人には9,000の味蕾がありますが、犬には1,700ぐらいしかありません。つまり、犬は味に鈍感なのですが、それでも糖分に反応する味蕾の数がもっとも多いため、果物に含まれる糖などの甘味物質を好むと言われます。
犬は味ではなく、口蓋部にあるヤコブソン器官と呼ばれる嗅覚器官で感じるにおいで、食べ物の好みを決めています。ですから、食の細い犬には、フードをふやかして脂肪のにおいで食欲を喚起するといった方法がとられるのです。
犬とオオカミを比べると、腸の長さは犬の方がずっと長くなっています。それは犬が人間に飼われるようになって雑食になったためで、人間から与えられる植物性の食べ物は、消化に時間がかかるからです。そうは言っても、犬はもともとは肉食ですから、植物性タンパク質よりは、動物性タンパク質の方が消化吸収しやすく、また、好んで食べるのです。
犬は肉食ができない環境では、植物性の油脂やタンパク質から体が必要とする栄養分を作ることができますが、免疫力が落ちている時などには、消化吸収しにくい穀物系の繊維質によって、腸の保護バリアが傷つけられて、食べ物によるアレルギー反応を起こす可能性があると言われます。
犬は、人間と同様に、植物性の食べものから必須脂肪酸を生成することができるので、植物性のものを与えることが良くないということではありません。食餌量の半分を肉や魚などの動物性タンパク質にして、穀物は加熱調理して柔らかくする、あるいは、犬の消化器官でも消化しやすいお米にするという方法があります。
犬の食餌管理はむずかしいものではありません。毎日決まった時間に、同じものを、一定量与えれば良いのです。それがなかなか飼い主さんには守れないのです。
人間の子どもに肥満が増加していると言われますが、犬の肥満もよく話題になります。
自分の子どもが減量しなければならない状態になった時に、その親は「本当にこの子は食いしん坊だからね」と、肥満になったのはその子自身のせいだと言いたいようないいわけをすることがあります。
確かに肥満になる子たちは「食べることが大好き」で、「大食い」と「早食い」の両方の要素をもっていることが多いようです。でも、子どもは親に管理されている立場で、自分で食欲をコントロールするような強い意志はまだ培われていません。つまり、子どもが肥満になるのは、親の責任ということになるのです。
同様に、犬の肥満は、代謝疾患などがない限り、飼い主の責任ということです。
犬の食欲は旺盛で、食べものをあげれば喜んで食べてくれます。いくらでも食べたがるようすに妥協して、「ちょっとだけ」と与えてしまいます。でも、犬の食生活をルーズにすることは、無意識のうちに犬を苦しめる結果へと導くことになるのです。
食べ過ぎれば肥満になります。人の場合と同じで、糖尿病や循環器系統の異常が発生しやすくなります。また、身体が重くなれば、足腰に負担がかかり、関節炎などにもかかりやすくなります。つまり、食べ物の与え過ぎは犬の寿命を縮めるのです。
野生動物は食べるものを自分で選んで、体調をコントロールすることができます。でも、ペットは与えられるものを食べるしかすべがありません。つまり、飼い主さんが何を与えるかで、ペットの健康は左右されてしまうのです。米国の獣医師などの専門グループは、アレルギーを含めて皮膚病や病気は正しい食餌で80%は改善されると言っています。飼い主さんが犬に与える食べもので、愛情を表現していい唯一の例外は「良い食餌を食べさせること」だけです。
「人間の食べ残しをやってはいけない」と言われます。それは、加工品に含まれる塩分や脂肪分が多すぎる、あるいは濃い味を覚えてしまって、本来の食餌を食べなくなるからです。
でも、人が口にするものほど安全で安心な食材はありません。そう考えると食べ残したものを犬にちょっとおすそわけすることは、犬にとって危険な食品でない限りは、悪いことではないはずですが、飼い主が度を越して与えてしまうために問題が生じるのです。
人間用の食材を使って、犬に手作り食を作ってあげるのが理想的ですが、時間的にとてもそこまで手をかけられないという人がほとんどでしょうし、必要とされる栄養素が全てバランス良く入っている食餌を家庭で作ることはそう簡単なことではありません。
人間用の食材を使用して作られた良質のドッグフードを基本にして、それに手作りの食材を少しずつ何種類かトッピングするという方法であれば、現実的でしょう。