わが家に迎えたばかりの子犬が死んでしまう。飼い主にとって、これほど大きなショックはないでしょう。生まれてから40日、あるいは50日を順調に育ってきた子犬が、新しい飼い主のところに来て何日もたたないうちに死んでしまうのです。


かつては、その死亡原因として「パルボウィルス」、「ジステンパー」などの感染症があげられましたが、最近は、ワクチン接種をきちんと受けているので、こういった病気にかかる確率は実は低いと考えられています。


では、考えられる原因として最も可能性が高いものは何かというと、それはストレスなのです。


家にやってきたばかりの子犬の元気がなくなり、食べものを食べず、下痢をしたり吐いたりするような状態をニュー・オーナー・シンドロームと呼んだりしますが、環境が急に変わったために、不安やストレスで体調を崩してしまうのです。かわいいからとかわるがわる家族がかまうため、疲れてしまうことも原因になります。


子犬には睡眠が必要です。健康な子犬は1日16~17時間くらいの睡眠をとります。寝ているときに起こして遊ばない、大きな音を立てて睡眠を妨げないなど、気をつけてあげて、たっぷり睡眠をとらせてあげなければなりません。


3ヶ月齢までの子犬は低血糖の状態になりやすく、ストレスがその原因になることがあります。


血液中のブドウ糖が異常に低下した状態が低血糖です。糖分が十分に供給できなくなると、脳を含めた神経系が最も大きな影響を受けます。ですから、血糖値が低下すると、けいれん発作などの神経症状と過剰な唾液分泌があらわれ、衰弱して死ぬこともあります。


子犬が低血糖になりやすいのは、次のような理由からです。

(1) 生きていくために、高いエネルギー量を必要としている

(2) 糖分を作るシステムが未熟である

(3) 糖分を作るために使われる体内のタンパク質の量が十分ではない

(4) ブドウ糖を体内に貯蔵しておく能力が未完成である


低血糖の状態になったら、砂糖水やスポーツドリンクを与え、すぐに動物病院に連れて行きます。動物病院では、血液検査で血糖値を測定して、ブドウ糖を投与します。予防法は、身体が冷えないようにして、こまめに食餌を与えることです。


子犬は、夏の暑さや冬の寒さで体調を崩しやすくなります。温度は25℃、湿度は40~60%が犬にとっては適切な環境とされています。


夏の暑い日、ハアハアしている様子がかわいそうだからと、部屋を閉め切ってクーラーをつけっぱなしにすると、天井面よりも3℃ぐらい低い床面にいる子犬にとっては冷えすぎの状態になってしまいます。

ドアや窓を少しだけ開けて外気を入れるようにし、外気温との差を5~6℃ぐらいにして下さい。


体温の低下は子犬の主な死亡原因になっています。ぐったりしている子犬に触ってみて、冷たく感じるようなら、低温やけどにならないように注意して、布で覆った湯たんぽを与えて温めます。


夏に多いのが熱中症です。夏の日中の散歩や、閉め切った暑い部屋でのお留守番、駐車中の車に置き去りにしたために、熱中症になってしまうのです。外気を冷やすラジエターの役目を果たしている鼻腔部(マズル)が短い犬、パグやフレンチブルドックなどは、特に熱中症になりやすいので気をつけなければなりません。


舌を出してハアハアと息づかいが早くなり、鼻の穴を大きく広げ、よだれを大量に出します。体温が上昇して42℃を超えると命にかかわります。発見が遅れると助かりません。熱中症の症状を表したら、すぐに水の中につけるか、濡らしたバスタオルなどで身体を冷やして、動物病院に連れて行って下さい。


生後まもない子犬は、まだ内臓の働きが完全ではないので、消化不良を起こしたり、吐いたりすることがあります。食べすぎの下痢が多いので、子犬に対しては、フードは少量を1日3~4回に分けて与えるようにします。もちろん、喜ぶからとおやつをたくさんあげたりしてはいけません。子犬は成犬の6倍の速さで脱水するので、軽い下痢でも命取りになる場合があります。脱水症状を起こした子犬には、獣医師による電解質溶液の投与や投薬が必要になります。