今回の課題は、「飼い主さんに飼いやすくて健康な子犬を提供する」です。
まず、将来飼いやすい犬になれる子犬の条件は、「きちんとした社会化期を過ごした」ことです。社会化とは、子犬が犬社会に順応し、人馴れするプロセスで、それを子犬は母犬と兄弟犬とともに過ごすこと、そしてブリーダーさんとのふれあいで自然に経験します。社会化のために必要とされる期間は、生後8週齢、56日程度というのがワールドワイドのスタンダードになっています。
日本のペット業者が加入する団体では、店舗での子犬の販売開始を「生後45日から」と決めましたが、その日齢から売り出すために、生後30日程度の子犬を仕入れています。大型犬の子犬では、もっと幼齢で仕入れています。社会化がきちんと入る前に子犬を親・兄弟から離してしまうわけですから、成犬になって攻撃的になるといったような「問題行動」を起こす犬が多いと指摘されています。
でも、ショップ側だけを非難するわけにもいきません。消費者はあどけない、かわいい赤ちゃん犬を欲しがる傾向が強く、ショップはそのニーズに応えざるをえないという事情もあるからです。子犬は生後3ヶ月齢を過ぎる頃から、成長して大きくなればなるほど、犬らしくなればなるほど、買ってもらいにくくなります。
犬が売れ残ることは、ショップにとっては頭の痛い大問題です。生き物ですから餌代もかかり、さらにワクチンの接種費用もかさんで、コストはどんどん高くなるのに、売るためには値段を下げなければなりません。
子犬は母犬の母乳から感染症などの病気に抵抗する免疫をもらいますが、その免疫が効いているのは生後60日~90日までとされています。このように免疫期間に幅があるのは、母犬から受け取った免疫力が強いか弱いかによるそうです。
子犬に免疫力をつけるためには、まず、母犬がきちんとワクチン接種を受けていて、免疫を渡してくれることが前提です。ですから、繁殖者のところで交配後、母犬にワクチン接種をすることで、生まれてくる子犬に免疫が移行するベースが作られていなければなりません。
子犬には、免疫期間の最短、生後60日でまず、第1回目のワクチン接種をします。しかし、この段階では、母犬からの免疫が子犬の体内に生きていて、ワクチンの効果を消してしまう可能性があります。そのため、免疫期間の最長、生後90日で第2回目のワクチン接種を行います。ワクチン接種を繰り返して行うのは、免疫力を強化するという目的もあります。
ショップで子犬を販売する場合には、生後60日(2ヶ月)ぐらいで繁殖者の元を離れて、生後90日(3ヶ月)ぐらいで飼い主さんのもとに行くというのが理想的なのでしょう。生後90日で2回目のワクチン接種をしても、10~14日は置かないと免疫が定着しないとされ、免疫の空白期間が生まれてしまう可能性があるので、外に散歩に連れ出すのはできれば4ヶ月齢になってからにしましょうと言われるのです。
現状の子犬の流通では、ジステンパーやパルボウィルスに感染した子犬の話をよく聞きますが、繁殖者のところできちんと母犬にワクチン接種をしていないので、子犬に免疫力がない、あるいは弱いことが原因と考えられます。そのために、市場などで病気を持ったほかの子犬と一緒になった段階で、感染してしまうのでしょう。
飼いやすくて、健康な子犬を提供することが、ショップの務めですが、社会化期をきちんと過ごさせると子犬の売れ時を逃してしまうというジレンマを抱えていることも事実です。
子犬を繁殖している人をブリーダーと呼ばずに、「繁殖者」と表現しているのにも理由があります。ブリーダーは、ひとつのタイプを目指して遺伝を固定して、自分のスタンダードで繁殖する「ブリーディングプラン」を実行している人です。しかし、繁殖者は、パピーファクトリー(子犬生産工場)と呼ばれることもある、単なる子犬生産者です。
従順で飼いやすく、健康な犬を望むのであれば、まず飼い主になる消費者が「社会化」や「免疫」について理解をして、待てることが大切です。消費者が待ってくれれば、ショップは、ブリーダーのところで十分に社会化期を過ごし、免疫力もついた健康な子犬を届けることができるのです。かしこい消費者の選択が、日本の子犬の流通を変える日が来ることを願って!!