かつて原宿でたけのこ族というファッションが流行った頃、英語も話せないのに友人を頼って米国に渡り、1950年代のジーパンなどを中心に古着を買い集めて、埼玉発の「からっ風ロックンロール」なるファッションを仕掛けました。これがヒットして20代で青年実業家の仲間入りを果たし、レストランを何軒も持つなど業容を拡大し、不動産事業にも進出しました。しかし、バブルの崩壊により、会社はあえなく倒産というお定まりの顛末。


全てを失って、焼き芋の移動販売の仕事に就きました。とは言っても、子供もいて、地元で焼き芋を売って歩くことにはどうにも抵抗があり、軽四輪のハンドルを握っているうちに、いつしか、かつてスキーで幾度も訪れていた苗場に向かっていました。そこでいつも泊まっていたペンションのオーナーさんに事情を話して、従業員用の部屋に泊めてもらいながら、焼き芋の商売をさせてもらうことになりました。転がりこんだのは大晦日で、ほんの2~3日のつもりが、ずっとそちらでお世話になってしまうことになります。


そのペンションには、「ダンディ」と名づけられたオールドイングリッシュ・シープドックが飼われていて、私はいつか自分もこんな犬を飼うようになってみたいと思いました。そして今、ショップのジャンパーの背中に描かれているのが、「ダンディ」です。


縁があって、ペットの流通業を営むようになりましたが、いつも念頭に置いていることは、子犬を売ってくれる繁殖家の皆さんがいなければ、この商売はありえないということです。そう考えれば、ペットフードの業界もペットショップも獣医師でさえも、その恩恵にあずかっていることになります。ですから、繁殖家の方が持ってきてくれる子犬は100%引き取らせていただくようにしています。


繁殖は、静かな環境で愛情を込めて行うもので、大規模にやってうまくいくものではありません。ですから、私のところでは160頭あまりの種オス犬を所有して、500軒に及ぶ繁殖家の方に貸し出す役割を担っています。小売りもしていますが、月に取り扱う600頭あまりの子犬の94%がペットショップへの卸売りです。また、毎週水曜日には、併設の関東ペットオークションで、子犬のせり市を開催しており、1回で200頭ですから、月に800頭が取引きされています。

それだけの頭数を扱うことになれば、死んでしまう子犬も出ます。私のところでの子犬の死亡率は9.6%もあります。このように申しあげると子犬をぞんざいに扱っているからだと誤解される方がいますが、生まれてきた子犬のうち、親から離される月齢に達するまで生存できるのは7割、それから流通段階でさらに1割ぐらいは死亡していくので、言えば100頭生まれて、みなさんのところに行けるのは60頭ぐらいしかいないことになります。


ワクチンを注射することはもちろん、いろいろな手立てを講じて生存率を上げることは、ビジネスとしてだけではなく、大切なことですが、それだけ注意を払っても、お客様の手元に入ってから、病気になったり、場合によっては死んでしまう子も出てしまいます。それは、生きものである以上、避けられないことで、決して病気だとわかっていて売りつけるようなことをしているのではないのですが、子犬がいけなくなると何でもペットショップや繁殖者の責任にしてしまうような風潮があることは残念です。


犬はプラモデルでもありませんし、いつまでもかわいい子犬のままではありません。短いとは言えど、15年ぐらいの寿命があって、それにかかるお金も生涯では150万円から200万円は必要です。生きものを飼う以上は、その命は全て飼い主に委ねられていることをまず最初に肝に銘じていただきたいのです。 あえて辛口の助言をさせていただくこともあります。「責任を持って育てられないのなら、売れません!!」