お買い物をしていたら、夏なのに、雪の歌が流れていた。初めて聞く曲で、そのまま立ち止まって聞いていたら、あまりの美しさに胸を締め付けられるような歌詞だった。
心に残り、なんという曲か調べたら、
Powder snow. 終わらない冬
という曲だった。
更に調べたら、2012年にヒットした曲らしく、最近の新曲ではなかった。ズコッ
それにしても本当に、心が洗われるような美しい曲‥本当に悲しい歌詞だけど。
この曲が、何故か私に、狭き門のジェロームを連想させたので、久しぶりにジイドの狭き門を読み直す気になった。
なので、今日は、狭き門から2箇所、私の好きな部分を抜粋します。
1つ目は、
ティーンエイジャーのジェロームが偶然アリサが泣いている場面に出くわし、アリサを一生守ろう、と決意する場面‥
(以下引用)山内義雄訳
彼女の顔には涙があふれていた‥‥
この瞬間が、私の一生を決定したのだった。
わたしは、今もなお苦しく思わずにはその時のことを思い出せない。
もちろんわたしには、はなはだ不完全にしかアリサの悲嘆の原因がのみこめていなかった。
だがわたしには、そうした悲嘆が、この波打っているいじらしい魂にとって、またすすり泣きにふるえているこのかよわい肉体にとって、いかに強すぎるものであるかがひしひしと感じられたのだった。
わたしは、ひざまずいている彼女のそばに立っていた。
わたしには、自分の心に起こったこの新しい興奮をどう言い現していいかわからなかった。
わたしはただ、彼女の顔を自分の胸をにあて、また彼女の額にわが心が流れだしてくる自分の唇をじっと押し当てていた。
愛と憐れみ、また感激、犠牲、徳行といったものが雑然と入りまじった感情に陶酔しながら、わたしは全心から神に訴え、わが一生の目的は、このアリサを、恐怖、不幸、生活から守ってやることのほかにないと思いながら、みずから進んでそれにあたろうとしていた。
(引用終わり)
そして、もう1つは、最後の場面。
おそらく40歳ぐらいのジェロームが、アリサの妹ジュリエットと10年振りに再会し、話す場面。
(以下引用開始)
「ジェローム、手紙でおねがいできなかったんですけれど‥‥この子の名付親になってくださらない?」
「もちろんお望みだったら、僕は喜んで承知するが」
わたしはちょっとびっくりして、揺籠の中をのぞきこみながら言った。
「で、名前は?」
「アリサ‥‥」
と、ジュリエットは低い声で言った。
「いくらか似ているとお思いにならない?」
わたしは、言葉もなくジュリエットの手を握りしめた。
小さいアリサは、母親に抱き上げられて、ぱっちり目をあけた。
わたしは、自分の腕に抱きとった。
「あなたも、いいお父さまにおなりになれるのに!」
とジュリエットはつとめて笑おうとしながら言った。
「いつまでひとりでいらっしゃるつもり?」
「いろいろなことが忘れてしまえるまで」
わたしの目には、顔を赤らめた彼女が見えた。
「早く忘れたいと思っていらっしゃる?」
「いつまでも忘れたくないと思ってるんだ。」
(中略)
「わたしの考えどおりとすると、あなたは、いつまでもアリサの思い出に、みさおを立てるおつもりなのね。」
わたしは、しばらく
答えなかった。
「というより、アリサが考えていたようなものに対してなのさ‥‥
殊勝だなんて考えられては困るんだ。
ぼくには、そうするよりほかに仕方がないんだ。
ほかの女性と結婚したって、つまりは愛しているようなふりしかできないだろうから」
「あら」
彼女は、それを気にとめないようすで、やがてわたしから顔をそむけると、何か失われたものをさがしでもするように床に目を落としていた。
「では、あなたは、希望のない恋を、そういつまでも心に守っていられると思って?」
「そう思うよ、ジュリエット。」
「そして、日ごと日ごとの生活がその上を吹きすぎても、それが消されずにいるだろうと思って?」
(引用終わり)