お腹のなかは、なんにもする事がなく、退屈でした。毎日楽しくお空で遊んでた日々が懐かしく思い出されます。お空に帰れない寂しさは、遊んた思い出を振り返り、まぎらわせました。
やがて月が満ち、お腹がいつもと違うのに気が付きました。狭いお腹が更にぎゅーとなり、狭く感じます。
陣痛が始まったのです。
だんだん押される力が強くなります。
生まれる時、物凄い力で押し出されるとお空で習っていましたが、始まってみると実際とんでもない力でした。私はパン生地のようにもみくちゃに翻弄されます。でも私はやる気に溢れてたんですよ。
いよいよだ、これを頑張ればお空に帰れると。
いよいよその時がきたんだ。
がんばるぞ!
出産の痛さは、妊婦も大変さに耐えています。赤ちゃんも、耐えています。
私は押し出す力に耐えました。さらにお腹のドアに触ると、ドアが開いて生まれると習っていたので、ドアに触らないようもがきました。アクロバティックに体をねじったり、曲げたりと、とにかく必死です。
間違って手足がドアを突き破ったらおしまい!
頑張るんだ!と自分を励ましたのです。
出産は長丁場。次第に私は疲れて来ました。頑張ろうにも、体に力が入らないのです。
すると陣痛には波があり、押し出されない間がある事に気が付きました。その時は、私は休みました。休むとまた頑張れるのです。
もしかして
何とかなるんじゃないか?
生まれないでいられたら、良く頑張ったねってお空で褒められるかもしれない( 〃▽〃)
わーい!
お空で「帰りたい人はみんなも真似しましょう」って褒められたりして

あなたは何をやってるのです!
えっ?
見ると担当の天使が来ていました。
あっ・・・!
「そろそろ生まれる時だから、見に来たのですよ。それなのにあなたは!」
般若のような形相の天使は仁王立ちで睨みます。

血の気が引きました。それに負けじと叫びます。
「だって生まれたくないんだもん!絶対嫌だから、お腹にいます‼お空に帰るんだもん」
怒りが最高潮の天使は理性をなくして、もっと大声で叫んだのです。
「こんなこと、いつまで続く訳ありません。お母さんとあなたの命が危なくなるんですよ!早くここから出なさい‼」
「そうなっていいです!」
「だからあなたは手が焼ける子なんです!今までどんなに手を焼いたことか。」
すると彼女は私を抱き抱え、思いっきり私を投げ飛ばしました。
さっさと
行きなさい!
うわぁああああああ
生まれちゃう!
ドアに強くぶつかりました。あれほど頑張って触らないようにしたドアは衝撃でバーンと開きます。
頑張ったのに、報われなかった悲しみと、天使に投げ飛ばされ、力ずくで生まれさせられるショックでアタマが一杯でした。
忘れるもんか~~~!
「あなたを忘れないから‼あなたみたいな人は天使なんかじゃない‼」
彼女はひるみながら高飛車に言い返しました。
「確かに私は他の天使よりは優しくない。だけどそれでも天使なのよ!」
くそー!
忘れるもんか
天使がすてきな人ばかりじゃないって、大きくなったらみんなに言うんだ‼
そうしてやる~~!
お腹から押し出される苦しさは、お空で習ったより大変な苦しみです。私はついに意識を失ってしまいました。
☆。.:*:・'°☆。.:*:・'°☆。.:*:・'°☆
気がついた時、辺りは白い場所でした。
ぼんやり明るく、静かな場所にいました。
あ・・・どこなんだろう。
家じゃない。(おうちの中は見て知っている)
あれ?もしかして
私は神様が見ていて、頑張ったのでお空に帰れたのだと思えました。
やったあ (*´∀`)
神様がきっと見てたんだ。私に味方してくれたんだ。
よかった・・・がんばってよかったよ~
踊り出したい気持ちになりながら、物凄く疲れていて、ボンヤリしていると視界に天使が現れたのです。
「ようやく分かった(意識が戻った)ようね」
?!
「やっと生まれてくれて安心したわ」
「そんな?私、お空に来たんじゃ・・・」
「何言ってるの!あそこに戻れるものですか。あなたはここにさっき生まれたの。これで私の仕事が全部終わったわ。生まれたのを見届けたし、これで帰れるわ。」
そうして彼女は憎々し気に私を覗き込みます。
「人間の辛くキツイ人生を生きるといいわ!」
「あなたのこと、私が大きくなったら、みんな言いふらしてやる!」
ふん、と彼女はせせら笑いました。
「やれるものならやりなさい。天使は清らかで美しい存在だとみんな知ってる。認識を変える気もない。無駄だわ。それでも
私は天使なのよ!
人間もバカよね!」
捨て台詞を残して彼女は立ち去りました。
☆.:*:・'°☆.:*:・'°☆。.:*:・'°☆
成長したある日。
私は、母に質問したんです。
生まれるまで長かったりしなかったか、大変な事がなかったかを。
母は普通だったよ、特に何も問題はなかったねと事も無げに答えました。
それを聞いて、がっかりしました。
やっぱり無駄なあがきだったんだと。
mio 


