粗筋 流れ星地球に生まれる子供達がいる、お空。
いよいよ地球に行くため、好きなお母さんを見つけるよう、天使に言われます。








窓から下を眺め、生まれる人を決めるのは、子ども心にも、とても重大な気がしました。たくさんのお母さんがいて、そこからたった1人のお母さんを決めるのは、悩む子が一杯いました。天使には生まれたら、死ぬまでお空には帰れないから、よく見て決めなさいと何度も言われました。





私は仲のいい女の子と、よく地球を眺めました。活発な私に比べてその子は大人しく、控えめでした。正反対な性格ですが、よく一緒にいました。





窓は誰もいないと、何も映らないただの窓でした。窓に来てここが見たいと思えば、思った通りの場所が見えます。「髪が金髪の人がいる国が見たい」「うまれる国を見たい」というように。ズームも思いのままなんです。





日本をあちこち眺めていくと、次第にお気に入りのお母さん候補ができました。こざっぱりして、髪を結ったちょっとキレイな人。どちらともなく「このお母さん、いいよね。いつもみんなに優しくしてる。」「いつもニコニコしてるね」と二人とも気に入った人でした。





「私、この人にお母さんになってほしい。」
私が言うと
「うん、私も。きっと優しくしてくれて、ここにいるように毎日楽しいよ。」
とその子は微笑んで答えました。
「あなたもお母さんになってほしい?」
私がうん。と元気よく言うと、その子は戸惑って、そう?と小さく呟きます。
「じゃ、あなたがお母さんにして。私はいつも見てた別の人にするから。」
「えー?いいの?じゃあ、そうしようかなー」
その時は譲られるとは思いませんでした。あまり深く考えなかったので、そうなったらいいなとその家に生まれた自分を想像します。


あっハッ


すぐ私は気を使って言ったのですね。
「あなたがお母さんにしなよ、すごく気に入っているって言ってたじゃない」



私、いいの・・・




悲しげに消え入る声。その子はいつもそうして、遠慮しているのを私は何度も見ていました。横入りされたり、遊具を取られたりしても黙ってるその子。物怖じしない私が「たまには○○したいって大声で言わなきゃダメだよ!」と意見しても、いいんだ・・・と言うのでした。





なので、私がここで「そう?じゃあそうするね。」と言ってしまえば、私はこの子の遠慮にある本心を無視する、他の子と同じ事をしている。ずっと仲のいい子に、そんな事できない。




でも自分のお母さんにしたいし、どうしたらいいんだろう?




その時、パッと閃きました。




そうだ、天使さんに訊こう!天使さんなら、丸く収めてくれる。私達を分かってくれる。
「ね、お母さんを決めたら天使に話してと言われたよね?天使に私のお母さんでいいか、訊いてみようよ。もしダメって言ったら、あなたのお母さんにすればいいんじゃない?」




その子は顔を上げ、恥ずかしそうに微笑みました。でも、と言いながら嬉しそうに。
「じゃあ、訊いてこようよ!行こう!」




しゃがんでいた二人は立ち上がり、私はその子の手首を取って歩き出しました。私は名案に喜び、駆け出したい気分で一杯でした。友達を大事にできた喜びと、天使さんがきっと賛成してくれると確信していたからでした。





担当の天使さんの所に来て、私が元気良く「お母さんを見つけました、いいですか?」と尋ねました。天使さんは私達を見て、そうですか、ではその人を見てみましょうと静かに言いました。





三人で窓の所へ行き、下を眺めました。私には根拠のない自信があり、いいですよと言われる自信がありました。やっとお母さんが決まるかと思うと、安心しました。意気揚々とあの人ですと教えると、天使はじっと見つめ、私はにわかに緊張しました。





なぜなら自分がこの天使から良く思われてないのを知っているからなのです。お気に入りの子じゃないから意地悪されて、理由なくダメと言われるんじゃないかと冷や冷やしました。





やがて天使はおもむろに私を見ました。
「あなたがお母さんにしたいのね?」
はい、と答えると天使は微かに溜め息をつきました。
「あなたには合わないわ。この人にはもっと優しい、いい子がいいの。」


いい子?
私、いい子だよ?


すると、友達に目をやりました。
「あなたはこのお母さんは嫌なの?」
「いいえ・・・」友達は消え入る声で答え、下を向きました。
「じゃあ、あなたにしなさい。この人をお母さんにしなさいよ。あなたなら、いい子だから可愛がられるわよ?」
友達は顔を上げました。嬉しさと気まずさが入り交じった、何とも微妙な表情です。
「でも、この子(mio)がお母さんにしたいから、私はいいんです」
「何言ってるの。私はあなたがいいと言ってるでしょう。さぁ、早速神様に話しに行きましょう。」


そんな、私がお母さんにしたいのに!


天使は私を慰めるどころか、友達のお母さんにして、また1人決まったと言わんばかりにさっぱりした表情なのです。




「ごめんね」
友達は声を振り絞って謝りました。そして強引に天使は友達を連れていってしまったのでした。


二人の背中を見送り、立ち尽くしました。



自分が選ばれなかった。それもいい子じゃないから・・・自分でいい子って思ってたのに違うんだ。いい子って、あの子みたいに大人しい子だったんだ。知らなかった・・・




その子は一番好きな友達でした。ここに来てから知り合って、いつも一緒にいて、居心地のいい子。その子の気持ちなら大事にしたい。だけど、この天使のされようには怒りがわきました。




結局友達はすぐに神様に認められて、下に行くのが決まりました。私と再会した際、その子は私に何回も謝りました。でも私は取り繕っていいよ、仕方ないよとしか言葉は出ません。





その子がいい子、私は違う。




天使の判断が思い出されてココロが痛みます。それでも友達だよ。他の子とはわりとケンカしてた私が、平和的に過ごせた子でした。





生まれるときには、ここの事も忘れてしまうと言うけど、忘れないよと約束しあった子。私達にはお空での名前や愛称もありません。多分どこかで生きていても、確かめ合うよすがは何もありません。




今、どうしているでしょう。





mio 翼翼