前に触れたように、ここの天使さん達には翼がありません。本来はちゃんと翼がありますが、天使さんの意思で出したり、なくしたりできるのです。普段は翼の先に子供達がぶつかってしまったりしないようにとの配慮で、見えないのです。
ところが子供達の間で、翼のないここの天使さんは本当の天使なのかな?と疑問が出てきました。嘘か本当か分からず、子供なりに言い合ってましたが、実際に確かめる子はいませんでした。結局、ここにいるのが天使じゃなきゃ誰なんだ?(だから天使だろ)と話は終息されるかに見えました。
ところがある日、気の強い男の子が天使の注意にわざと口答えしたのです。本当の天使なら翼があるのに、ないから、ウソの天使の言う事なんか聞くもんか!と逆らったのです。しかしさすが天使さんは冷静に諭し、翼がない理由を聞かせたのでした。
ひやひやしつつそのやり取りを見ていた私達は、どうしても翼を見たくなってしまいました。
そこでみんなで頼んだら、見せてくれるんじゃないかと意見がまとまりました。そして頼みやすそうな、天使さんの中でも一番優しい女性に的を絞りました。
4~5人の同志でその天使に話しかけ、翼がどうしても見たいんですと言ってみました。天使さんは静かに言いました。
「子供達の前で翼は決して出してはいけない決まりなんですよ。もし神様に知られたら、私はとても叱られてしまうんですよ。だから、見せてあげられないんですよ。」
やっぱり、と残念がりそれ以上もう言えないと諦める子もいました。
「ちょっとだけ、お願いします。誰にも言いませんから、ねぇ。」
誰かが懇願します。それに勇気付けられみんな口々に頼みました。
絶対に言いふらさない、誰も見てない場所でちょっとだけ。
私達は懇願したのです。すると悪意のなさと熱意に根負けして、天使さんは少しだけならと控えめな声で許してくれました。「今はダメだけど、他の天使がいない時にならいいですよ。その時にはみんなを呼んで見せましょう。」
あとで見せてもらったら、服を着たままの天使さんの背中から霞のような翼が見え始め、次第にはっきり白鳥のような美しい純白の翼が背中を覆いました。
天使さんが初めて見せる翼に感激して、みんなで触らせてもらいました。「静かに、そっとね?」の言いつけを守り、神妙な顔で。「やっぱり本当の天使だ。」囁きあいながら、安心して互いに笑顔を見ると嬉しくなりました。
その場にいたのは天使さんに私達だけでしたが
、数日後この話が噂に流れているのを聞きました。他の子から話題にされても、私は知らないと言い通しました。
噂が出た辺りの頃、彼女が沈んでいるのに気づきました。どうしてなのか訊いてもなかなか理由は話してくれませんでした。しつこくきいてやっと聞いたのは、やはり神様のお叱りでした。
彼女は神様にこの事が知られ、やはり厳しく叱られてしまいました。子供達の強い願いがあったためお咎めはありませんでしたが、私達が無理を言ったのが結果として、天使さんを傷つけたのだと分かりました。
私達はそんなつもりはなかったのに、彼女が善意でしてくれた事に神様はなんて意地悪なんだ、そして神様に会いに行って、自分たちが悪いんですと言いに行こうとみんなで決めました。
その話を天使さんにしたら、普段物静かな天使さんは顔をくしゃくしゃにして、もういいのよ、私もみんなに翼を見せてあげたかったのだから。会いに行かなくても、神様はみんなを許して下さってますから、神様の所へ行ってはいけませんよと言い、みんなを抱きしめました。
天使さんは簡単に私達を許しましたが、とはいえ後味が悪いものでした。せめて自分たちにできることはないかと頭をひねり、私達はここにいる間は、その天使さんを悪い子から守ろうと誓いあいました。彼女に逆らう子がいたら「指導」をしたり、話をして分からせたのです。
私達は天使さんとお話をするのも好きでした。
私達は生まれ変わるけど、みんな初めの姿があると習った日、放課後に天使さんに今日、これを習ったよ~私達の元の姿を教えて、と訊くと微笑んで心得たように教えてくれました。
4~5人の子供達を前にして、天使さんは一人一人に
「あなたは小さな(翼の)天使」
「あなたは人間」
「あなたは他の星から来た子」と教えていきました。そして私に「あなたは(翼の)大きな天使」と言うと、一人の男の子が急に「こんなやつが天使のわけないじゃん!」と罵りました。「こいつは男に負けないし、喧嘩もするんだ。あんな大きな天使じゃない。」天使は翼が大きいほど、ランクが上になるからです。
普段の自分が恥ずかしくなり、真っ赤になって思わず俯くと天使さんは優しく「今はそうでも、かつては天使だったのですよ。」と私を励ますように男の子に答えてくれました。そして、私が地球に行く目的を話しました。
「ふん!」
男の子はバカにして睨み付けてきました。
「こいつが翼が大きな天使なら、なんで可愛くないんだよ。ここにいる天使はみーんなきれいだぞ!お前なんかさっさと地球にいっちまえ!」
mio 


