関東在住のピアニスト、木村直子のピアノコンサートのライヴ録音のCDを聴きました。


曲目は、バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番、モーツァルトのピアノソナタK331、フランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」、アンコールにマルチェルロ(バッハ編)のオーボエ協奏曲より第2楽章、バッハの平均律第1集第1曲よりプレリュード。


木村直子の演奏は、音の一粒一粒をスタッカートに近いまでにくっきりとさせ、ほとんどルバートやレガートをかけていません。

メロディーと伴奏というよりも、各声部をポリフォニックに対比させることに気を配っているようです。

だから、和音を打っても、音が固まりになったりせずに、きれいに響きます。


そんな芸風が、バッハの作品にあっています。

幻想曲は、バッハにしては意外とロマン派風なのですが、それに溺れていません。

もちろん、フーガの部分は最高です。


ロマン派の作品であるフランクの「前奏曲、フーガと変奏曲」ですが、意外とバッハに通じる味わいがあると思いました。

ここでの演奏も、バッハと同じことが言えます。


ベートーヴェンのいわゆる「月光」のソナタでもその奏法は変わりません。

全体的に遅いテンポで弾かれています。

第1楽章も、どろどろした演奏にならず、響きがくっきりと見通せて、意識して聴くからでしょうか、ポリフォニックに聴こえます。

終楽章も、その特徴は変わらず、突っ走って音が固まりになったりはしません。


私は、モーツァルトはあまり積極的には聴いていないのですが、こうして一曲じっくりと聴いてみると、やはり捨てがたいものがあります。

たぶん、このソナタは、ピアノのお稽古をする人にとって、割と早い時期に取り上げる曲でしょうけど、こういった単純な作品こそ演奏する側にとっては恐ろしいものだと思います。

第1楽章の展開部に入ったところでいつの間にか暗転している部分が印象に残りました。

ここでも、メロディーと伴奏ではなくて、各声部が対等に聴こえます。


アンコールの2曲も、自分の得意なところをご披露といったところでしょうか。

どちらも抜粋ですが、欲を言えば全曲聴きたいと思ったりもしました。


ともあれ、このコンサートは、芸風に合った選曲が絶妙で、充実したものだと思いました。

この人は、あまりショパンやシューマンには向いていないのではないかとの印象を受けました。

それはそれで聴いてみたくもありますけれど、やはり、フーガとかの対位法的な作品を聴いて見たいと思います。

ベートーヴェンのピアノソナタ第31番あたりでしょうか。

この曲にもフーガの部分がありますから。