何のきっかけか忘れてしまいましたが、ふと藍川由美の歌う古関裕而の「露営の歌」を聴かなくてはと思って聴きました。レクイエム「ああ此の涙をいかにせむ」古関裕而作品集2に収録されています。
「露営の歌」は、誰でも知っているような代表的な軍歌です。歌詞を見ると、勝って来るぞと勇ましくだの、戦友が笑って死ぬだの、天皇陛下万歳だのと典型的な軍国主義です。
しかし、藍川由美の歌唱で聴くと、ずいぶんと悲惨な歌であるとの印象を受けます。厭戦だともいえますが、厭戦を通り越して悲惨だという印象の方が強いです。天皇陛下万歳のくだりでその悲惨さは頂点に達します。
これは、藍川由美が、この歌の持つ本質を抉り出したものであると思います。藍川由美ほど日本の歌曲から作品の持つ感情を抉り出せる人はいないでしょう。このことはまたあらためて触れたいと思います。
軍国主義的な歌詞(これも見方によっては悲惨なものですが)を裏切るように、戦争の悲惨さが音楽に宿っています。このことは、後半の間奏部分に一時的に音楽が長調に転じて安らぎに満ちた天国的な雰囲気を醸し出す場面があり、それがすぐに悲壮な(悲惨な)旋律に断ち切られる部分に顕著に顕れています。
この歌が、当時非常にヒットした理由は、この歌に隠された厭戦的な気分を人々が感じ取ったからではないでしょうか。聞くところによると、この歌は太平洋戦争の末期には、厭戦的であるとの理由で歌唱禁止になったそうです。
このCDには古関裕而の軍歌が集められていますが、聴いていて悲惨な気分がひしひしと伝わってきて、聴き続けることが困難になってきます。実は最後に一曲だけ長崎を題材にした反戦歌が収録されているのですが、軍歌と反戦歌との雰囲気の変わらないことに驚かされます。ここには同じ古関裕而の「長崎の鐘」に見られるような甘美さは感じられず、まったくの悲惨な反戦歌を聴くこととなります。
現代にも、戦時中に何かノスタルジーのようなものを感じている人(戦争体験があるなしにかかわらず)がいるようですが、そういった人にこそこの藍川由美の歌う軍歌を聴かせてやって、渇を入れてやりたいものです。
このアルバムほど厭戦感、いやそれを通り越して戦争の悲惨さを感じさせるものはそうはないでしょう。
私個人としては、このアルバムこそ、原爆資料館の売店に常備しておくべきと思います。
- レクイエム「ああ此の涙をいかにせむ」古関裕而作品集 2/藍川由美

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古関裕而