野山を駆け巡るオフロードバイクといえば、その扱いや取り回し易さの点から、実質的には250ccのバイクが上限でした。
もちろん、それ以上の排気量のオフロードバイクもたくさん有りますが、パワーと機動性のバランスからすれば、250ccが最もバランスがとれているとされてきました。
確かに険しい林道や荒れた未舗装路では、250ccクラスのオフロード車がマッチするかも知れません。
しかし、同クラスのロード車と比べると、空冷単気筒の4ストロークエンジンでは、高速道路やバイパスなどの流れの速い道路で、アンダーパワーを感じるライダーも大勢いました。
ましてや最近は殆どの道路が舗装され、林道を走るには高速道路でそれなりの距離を移動しなくてはならないとなると、オフロードバイクとはいえ、実際の使われ方はオンロードでの場面が大半になるのではないでしょうか。
舗装路での使用をメインにしながらも、「オフ」もそれなりに走れ、長距離のツーリングもこなせるバイク… そんな欲張りとも思える良いとこ取りの発想から、1980年代に大型の4ストロークエンジンを積んだビッグオフローダーが各社から発売されました。
HONDA XLV750R (1983年)
1980年代半ばのビッグオフロード車の中でも代表的なのが、HONDA の XLV750R かもしれません。55馬力の空冷V型2気筒エンジンを積んだ車体は210kg以上もの重量があり、舗装路での長距離ツーリングは充分にこなせても、林道に分け入るにはかなりの技量を必要とするものでした。
当時、HONDAの250ccクラスの代表的車種である XLX250R の乾燥重量が118kgですから、その差は2倍近いものがありました。
友人宅でバイク雑誌を読みながら、この XLV750R の発売を知った私は写真を見て吹き出したのを覚えています。
オフロード車としては常識外れの排気量と車体重量、何よりも巨大なタンクを備えたその姿は、常軌を逸しているとすら思えたのです。
私の驚きぶりを見た友人は「あぁ・・・ そのバイクはHONDAが冗談で作ったバイクらしいよ。HONDAは儲けているから余裕があるらしい」と言ったのを、真に受けて納得した覚えがあります。
案の定、XLV750R は日本では殆ど売れませんでしたが(数百台の限定販売だったかも知れません)、輸出先のフランスでは大人気だったそうです。
大型のオフロード車が好きなのは、フランスがパリ・ダカールラリー本場の国だからかもしれませんが、それ以外に彼らの心を捉えた理由の一つが、カラーリングがフランス国旗の三色(赤、青、白)と同じだったからだそうです。
(赤、青、白のトリコロールカラーは、当時のHONDAのイメージカラーでもありました)