『明日は檜(ひのき)になろう、明日は檜になろうと一生懸命間がている木。でも永久には慣れない、だか翌檜』。一人の人間である梶鮎太の、人生における入口から出口まで、その幼い魂の上に刻印されていく出来事、そしてそれによる鮎太の変化が描かれた作品。
文末の文芸評論家 亀井勝一郎さんのお言葉を拝借するならば「感受性の劇とその変化」を読み取れる作品であり、自分以外の人生を体験できるような作品であった。
福田 宏年さんの解説文で知ったが、井上靖作品には共通の「劣等感」がこの作品にも現れているとのこと。この作品自体は読みやすかったものの、次は別の人でいいかなぁと思っている自分がいる。(お腹いっぱい)
・「他の女性を女性として見れない」←これは「ひどく気障っぽい」らしい
→ここまで行っている鮎太でも、何かをきっかけにその人への未練を断ち切れた。宇多田ヒカルのTime will tell とはこのことだね(笑)。
・人間みんないつまで経っても翌檜なんだろう。だけどそっちの方がいいのだと思う。一度檜になってしまったらそこで成長は終わってしまう。作中にはたくさんの翌檜が登場するが、みな死んでしまったり、捕まったり。でもそれは翌檜であるが故に起きたこと。成長しているから、前に進んでいるから起きたこと。自身も翌檜であり続けられるように精進したい。
・個人的には小説を読む目的はEscapism, つまり現実逃避をしたくて、そこには違う世界への旅を期待して毎度本を買っている。今回の本は他人の人生を生きることができる貴重な体験をできた。こんな本をもっと読んでいきたいと思う。
<気に入ったフレーズ・知らなかった語句>
・「四辺(あたり)は少し蒼味を帯んだ(おんだ)ひどく静かな世界だった」
→ある登場人物が雪山の中で心中したシーンの描写。この「少し蒼味を帯」びたという表現、「ひどく静か」であるという状況が遺体が放つ独特の緊張感と体の特殊な色合いを上手に表現していた。
・「情熱というものの量は、人間、一定量だと思うんだ。俺の場合は一人の女性にその全部を使い果たしてしまったので、もう今は残っていない。誰を愛することもできないらしいんだ。」
・春さんには過ぎたるものが二つある。
→春さんにはもったいないものが二つあるってことだね。
・「白眼の多い眼」
→つまり大きな眼。
・地球は「星の植民地」
・「白線を棄てたら箍(たが)が緩みやがって」
→白線とは旧制高校の制帽にあった、学年を示す白い線(バッジの様なもの)。箍とは樽や桶の周囲に輪っか状に巻かれており、崩れないように固く締められている。この箍が緩むとバラバラになってしまうため、感覚が鈍ったり、気が抜けていることを「箍が緩む」という。
・兜を脱ぐ
→相手の力を認めて降参する。 「君の情熱には兜を脱ぐよ。」
・怜悧→賢い・利口
・接心→精神を集中し、乱さないこと。
・蓮葉(はすは・はすっぱ)
→蓮の葉。あるいは女性の態度・言葉が下品で軽はずみなこと。「ーな笑い方をする女性」。また浮薄・軽率なこと。
・鷹揚→何事にも恐れず悠然としている様。
・宝塚線→大阪〜兵庫を結ぶ阪急電鉄。そんな路線あったのか...
・言辞(げんじ)
→言葉・言葉遣い。「小賢しい言辞を弄する(用いる)」
・素人屋
→客商売をしていない人の家 or 素人下宿(普通の家で人を下宿させる)
・お侠(おきゃん)
→若い女性が活発すぎて軽はずみなこと。またそのような女性。
・恋情(れんじょう)→恋心
・変梃(へんてこ)
・下婢(かひ)→女中さん
・隧道(ずいどう)→トンネル
・内儀さん(かみさん)
・うだつの上がらぬ生活
→うだつの上がらない=出生しない
・不逞(ふてい)→けしからぬ行いや態度。「ーの輩」
・タバコを喫む(のむ)
・細雨(さいう)→細かい雨。霧雨
・三和士(たたき)
→赤土や砂利などに消石灰とにがりを混ぜて練り、塗って叩き固めた素材。外の土→家の中の土間→上がり框(かまち)(内と外を分ける段差)→座敷、という順に人が家の中に入っていく流れです。その中で、同じ土でも家の中は外よりもキレイにしようと、三和土が仕上げ材として使われるようになった。
・山巓(さんてん)→山頂部の最も高い所。
・難詰(なんきつ)→するどく問いつめること。
・羽子板(はごいた)→女の子へのお守り
・脚絆(きゃはん)→レギンス?
・車座(くるまざ)→大勢が輪になって座ること。
・索漠(さくばく)→味気ない、物寂しい。「ーたる風景」
・社の退ける間際→退社時間ってことか
・詰め腹を切らされる→辞任・辞職など、無理矢理責任を取らされること。
・精悍(せいかん)→勇気がある・活力がある
以上