8歳のミニチュアシュナウザーが
発情1ヶ月後に外陰部から出血を認め来院した。
外陰部から排出していたのは血膿であり、
腹部超音波検査ではφ3.7cmに腫大した子宮内に液体貯留像を認めた。
血液検査では総白血球数3万/μlの慢性活動型炎症像を認め、
子宮蓄膿症と診断し緊急手術を行った。
摘出した子宮内には膿貯留を認めたほかに、
子宮体部から頚部にかけて壁の肥厚を認めた。
術後は順調に回復し2日後に退院した。
病理検査の結果は子宮内膜炎の他に、
子宮の肥厚した部分にはリンパ腫の浸潤性増殖が認められ、
子宮内膜組織原発のリンパ腫が疑われた。
手術より10日後の抜糸時に、今後の治療に関し以下の様に説明した。
*今回は子宮のリンパ腫病変を完全切除できたが、
他の部位にまだリンパ腫が存在する可能性があること。
*リンパ腫は全身性疾患であり、たとえ今は他病変がなかったとしても、いずれ再燃してくること。
*リンパ腫は無治療では数カ月で命を落とす可能性が多いこと。
*治療は全身療法である化学療法(抗がん剤治療)がメインとなること。
*治療により完治することはないが、元気な状態で延命できる可能性があること。
その後みるみる元気になり手術から1ヶ月後には少し太ったと連絡が入った。
オーナーは子宮蓄膿症が治り元気になったことに満足し、
リンパ腫に関しては経過観察をすることとなった。
その後、来院は途絶えていたが、
手術から2年後、狂犬病ワクチン接種に来院した。
体重はさらに増え、調子は良好であった。
それから2カ月後に嘔吐と歩行困難で再来院した。
来院5日前より嘔吐があり、たべてもすぐに吐出してしまうとのことであった。
他院で皮下点滴や吐き気止め等の治療を受けていたが病状は悪化し、
3日前からは歩行困難となっていた。
数日後に二時診療施設にてCT検査の予約が入っていたが、それまで持ちそうもないと当院に来院した。
すぐにリンパ腫の再燃を疑い、全身チェックをした。
体重7.4kg。削痩と脱水が認められ、2ヵ月前のワクチン接種時より1kg体重減少していた。
呼吸が荒く、動くことも困難であった。
腹部皮膚には紫斑が認められた。
レントゲン検査では胸水貯留と気管の挙上が認められたことから前縦隔部の腫瘤の存在も疑われた。
肝臓と脾臓の腫大が認められた。
胸部超音波検査では胸水の貯留と前縦隔部にφ2cm大の腫瘤を2個認めた。
胸部超音波検査では胸水の貯留と前縦隔部にφ2cm大の腫瘤を2個認めた。
腹部超音波検査ではφ1cm大に壁が肥厚した腸管を認め
FNA(針吸引細胞診)を行った。
大型で幼弱なリンパ系細胞を多数採取し、リンパ腫が疑われた。
血液検査では好中球数の増加(60101/μl)が認められ、
中型から大型のリンパ球も散見された。
そこで全身に播種したリンパ腫 ステージⅤbと臨床診断し、化学療法を開始した。
酸素テント内で過ごしていたが翌日には更に呼吸困難となり、胸水抜去術により約300cc吸引した。
少し呼吸が楽になったため酸素テントから出て、更に抗がん剤の投与を追加した。
黒色の下痢便を大量に排出した後に食欲が改善し、嘔吐も見られなかった。
その翌日、すっかり食欲を取り戻し、元気に退院となった。
オーナーの希望により、その後の積極的な治療は望まれず来院はされていない。
リンパ腫は基本的に全身性疾患であるため、治療の第一選択は全身療法としての化学療法であるが、局所に限局したタイプでは外科療法や放射線療法が適応となることもある。
今症例は他疾患の治療時に偶然見つかった子宮に限局した節外型リンパ腫であった。
病変を外科的に完全切除することにより、2年間の寛解期間を得た。
その間来院されなかったことから、私は既に亡くなっているだろうと思っていたので
2年後に元気にワクチン接種に来院した時には驚いた。
「手術でリンパ腫が根治することもあるのか?」と不思議に思っていた矢先に再燃を認めたのである。
オーナーもリンパ腫のことはすっかり忘れていたが、やはり再燃するのだ。
教訓となったのはリンパ腫は完全寛解しても必ずいつか再燃すること。
そして外科療法や放射線療法で寛解に導けたリンパ腫が再燃し、
全身に播種した場合も化学療法でコントロールできる可能性があることを再認識した。