2年前に左の頚部皮膚に小さい粒をみつけました。
その小さなしこりがここ2-3ヶ月で急速に増大してきたため来院しました。
腫瘤は左頚部皮膚にφ2×2×1.5cm大で存在し、皮膚表面には自壊が認められます。
腫瘤底部には頚静脈がありますが固着はありません。
元気や食欲は正常ですが、腫瘤が大きくなり始めてから引っかいたりこすり付けたりして表面が潰瘍状に崩れています。
オーナーのご夫婦は取れるものならば取ってやりたいという気持ちと、老猫だから無理をせずにこのまま様子を見ようかと悩んでいます。
そこで、治療の選択肢を提示いたしました。
①このまま様子を見て更に増大してくるようならもう一度来院する。
②腫瘤の針吸引細胞診を行い、結果により考える。
③手術により腫瘤を切除し、病理検査で判定する。
オーナーは②の細胞診と現在の健康状態を知る目的で血液検査をすることにしました。
細胞診の結果、顆粒を豊富に含んだ特長的な細胞を多数採取して肥満細胞腫と診断しました。
血液検査の結果、老齢猫ではありますがまだまだ肉体年齢は若いことも分かり、手術に踏み切りました。
肥満細胞腫は他の腫瘍と比べ広範囲に切除しなければ取り残してしまうことが多く、術前に細胞診により病名が分かっていたことで初めから広範囲切除をすることができました。
腫瘍底部は頚静脈を温存し、周囲の皮下脂肪層も含めて切除しました。幸い、比較的皮膚に余裕のある部位でしたので術後の機能障害もなく完全切除することができました。
術後の病理検査の結果は高分化型肥満細胞腫であり、切除辺縁(マージン)に腫瘍細胞は存在しませんでした。
猫の皮膚に発生する肥満細胞腫は、皮膚に発生する腫瘍の中で2番目に多い腫瘍であり、頭部、頚部に多く発生します。
皮膚肥満細胞腫はパトコちゃんのように孤立性に発生することが多いのですが、12~20%で多発性病変が認められ、そのうち半数では全身に播種性に広がります。
また、皮膚に肥満細胞腫が発生した猫の15%で全身性病変(肝臓、脾臓、腎臓など)を持つという報告もあります。パトコちゃんは各種画像検査から皮膚に限局した孤立性の腫瘤であることがわかりました。
病理学的には犬のように明確なグレード分けによる予後判定の指標はありませんが、今回のような高分化なタイプは完全切除により予後は良いとされています。しかし、他の部位に新たな病変が発生することもありますので今後も経過観察が必要です。