「寝る前に読書をすると寝つきがいい」というのはよく聞く話だ。

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 人の寝静まった夜更け、読書灯の小さな明かりだけで物語に没頭するのは、

 騒がしい昼間にはできないショボイ集中力の自分にとって特別な時間である。

 しかし、そこには問題が発生する。

 実は、自分は「寝る前に本を読むと興奮して寝つきが悪くなる」タチ。

 読書はもちろん、同じくらい寝るのも好きだ。

 明日の予定と相談なのは言わずもがな。

 今日は寝るか?読むか?というヘッポコな戦いを繰り広げなければならない。

 おまけに。

 なんとも恥ずかしいここだけの話。過去、本を読んで眠れなくなった夜。

 刻々と迫る起床時間に悲しくなって、さめざめと涙を流したことさえある。

 

 おっと、大の大人が泣いちゃうなんて…、と笑うでない。

 それは夜の魔力が作り出すナチュラルハイなテンションの仕業であり、

 夜の読書の魅力もここにあったりする(ちょっと言い訳)。

  ・・・んではなかろうか?と思うのであ~る。

 

「人間、眠くてたまらなくなると箸が転げても笑えるもんだ。

 あの感覚に陥ったヤツは下手な三流芸人を見るよりも面白い。……。」

 と言ったのは小学校6年生の時担任をしていたA先生だった。

 彼は大学を卒業して2年目くらいの熱血先生で、

 自分は東大に行ったぞ! と力を込めて言い、みんながスゴイと関心したあと 

 ・・・・・・いや、行って門をくぐっただけだが、いやぁやっぱ違うね東大は。

 ハッハッハ。

 なんて笑ったのが新任の挨拶だったと記憶する。

 そのA先生の

 「人間、眠くてたまらなくなると箸が転げても笑えるもんだ。…」

 と言ったその言葉は、

 深夜の魔力を知らない子供だった自分にはとても強烈で、

 先生の鼻の穴の黒さとともに、深く胸に刻まれた。

 (いまでも、この言葉を思い出すと先生の鼻の穴が目蓋に浮かぶ・・・複雑)

 

 実行したのは高校の修学旅行。

 ウチの家、就寝時間は夜の9時と決まっていた。

 それは「早く寝るようにクセがつくと、子供は非行に走らない」という、

 かぁちゃんの躾のためだ。

 余談だが、それを嫌というほど身体にすりこまれた自分は、

 テスト勉強で深夜まで起きていたら次の日は寝不足でゲロを吐き、

 十代になっても二十代になっても夜は眠くて遊ぶどころではない。

 悔しいことにそれは今でも続く。

 いくつになっても、まんまとかぁちゃんにしてやられるというワケだ。

 だから家にいるときには実行できなかった

 寝不足ハイテンション計画の実行は、高校の修学旅行と決定したのである。

 名づけて「オールナイト豚のシッポ作戦-睡魔ヲヤッツケロ-」

 

 この計画は前もってに友人数名に伝えておいた。

 つまり、トランプのゲーム「豚のシッポ」で一晩明かそうじゃないか。

 といういたって簡単なものである。

 ここで注意することは酒の持ち込み不可。

 酒があるとナチュラルハイではなくなってしまうからだ。

 酔っ払ってハイになるのはわかりきった事実だ。

 (テンション下がる人もいるか?)

 

 豚のシッポというゲームは、

 よく切ったトランプをぐるっと豚のシッポ状-円になるように重ねて-広げ、

 それを仲間で取り囲む。

 時計周りがその逆で一枚づつトランプを引き、表にして真ん中においていく。

 同じ数字なり、マークなりがそろうとそのトランプに手を置く(カルタみたいに)。

 一番最後やお手つきした者は、

 中央に溜ったカードを引き受けなければならない。

 最後に手持ちが多かった者の負け、ちゅうことで。

 それを延々と繰り返したんだなぁ。

 しっかし、われながらよく続いた。

 夜の9時くらいから始まって気がつくと時計の針は明け方の4時を指していた。

 船のハメ殺しの丸窓に見える空が、夜とも朝ともつかぬ複雑な表情をして-。

 

 そのとき事件は起こった。

 ゲームは確実に進行していた。

 しかし、その時間までに5人いた仲間も1人減り、2人減り……。

 気がつくと3人になっていた。

 ゲームは進む。しかし気のせいかスピードがのろい。

 ゆっくり、ゆ~っくりと動くスロー再生のビデオのように、

 トランプを叩く手も鈍い。

 と、突然。お手つきをしたE。

 ふと顔を見ると、もう眠気に負けそうだ半分は目蓋が閉じかけている。

 「あ、間違った~」

 そういいながらEはヒャッヒャッヒャと老婆のような笑い声を上げた。

 それがあまりにもおかしかったのだろう、

 もう一人のYを見るとヘッヘッヘッヘと変な口の形で肩を揺らし、

 時折見せるEの白目に気がつくと自分もケケケケケッと笑っていた。

 それはノンストップ。

 今風に言うと各駅停車のきちんとした列車が、

 マツケンサンバに乗っ取られた形で暴走していくような、そんな感じだった。

 

 結局。

 我々は笑い疲れて寝た。

 最終的にはお互いの顔を笑いあうという不実で不毛な行動であったが、

 やっぱり箸が転げてもおかしいという先生の言葉は当たっていた。

 

 深夜の読書の魅力を・・・。

 知ってしまったら、寝る前は読まずには眠れない。

 それは先には書いたように

 夜の魔力が作り出すナチュラルハイなテンションの仕業であり、

 読書の魅力もここにあったりする。

 日中に読むのも良い。

 だけど、夜に読むとまた違った感情移入があって面白いと思う。

 それが自分が悩む理由なんだよね。

 

 さて、今日はどうするか。

 生きるか死ぬか、いや、読むか寝るか、それが問題だ。

 

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 他の人はどうなんだろう? やはり寝る前に読むと寝つきが良いのか?