年度末ですね。
24歳で職に就いてから職場は転々としましたが、ずっと年度で区切られる業界にいたもので、3マツに追いかけられることのない今年は格別です笑
っていうか、仕事ないのだから、笑ってる場合ではありません..
齢50を過ぎてこういう流れになるとは思ってもいませんでしたが、振り返ってみるとロクな実績もスキルもなく、キャリアを活かした再就職などというのはどだい無理な話、という現実に直面しています苦笑
ま、そこは充電中ということで、ぼちぼち考えるとしましょう。
で、今回はリヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」です。
リヒャルトと言えば「ばらの騎士」とか「サロメ」とか、オペラ作品が有名だと思いますが、若い頃は管弦楽作品の分野で傑作を多く残しています。
「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「ツァラトゥストラはかく語りき」「ドン・キホーテ」など、どれも交響詩として緻密な構成のもとに書かれた標題音楽ですね。
以前、ベルリオーズの幻想交響曲の項で触れましたが、標題音楽というのは風景や心情を音で表現しようとするもので、ベルリオーズがその開祖、その後リストやワーグナーが交響詩やオペラで発展させ、このリヒャルトが総まとめ、みたいな流れかな、と。
そして、そのリヒャルトの標題音楽・交響詩の中でも、この「英雄の生涯」が集大成と言えます。
というのも、この曲で表現した「英雄」とはリヒャルト本人とされ、要は自分を「英雄」に見立てその生涯を綴るという、なんとも大胆な作品、その上これを34歳という若さで書き上げ、これ以降交響詩は書いていないという、やり切った感満載のものなのです。ちなみにリヒャルトは85歳まで生きていて笑、このあとオペラの作曲に邁進していくことになります。
曲はだいたい6つくらいの部分に分かれていて、リヒャルトの生涯に沿ったいろいろな場面が描かれます。
..6つくらい、というのは、曲が切れ目なく演奏される上に、楽譜に各部分のタイトルが書かれていないので、CDや演奏会プログラムなどによって区切り方が違ったりするからです。厄介だ笑
1.英雄
冒頭の低弦から始まるメロディが英雄の主題、リヒャルト自身を表すものです。跳躍の多いとても勇壮な音楽です。
2.英雄の敵
リヒャルトの音楽に文句をつける批評家たちを表現している部分。吹き散らかすようなフルートに始まり、木管を中心にざわざわと小うるさく拡散していきます。途中で英雄の主題が対抗するように現れては消え、が面白い。
3.英雄の妻
ヴァイオリンのソロが彼の妻を表現します。批評家に打ちのめされた英雄が、優しい妻に癒され、奮い立たされていく様子が見事。
リヒャルトは、後に作曲した「家庭交響曲」でも妻を登場させていて、そこではなんと夫婦の愛の交わりまで表現するという暴挙?に出ます苦笑。愛妻家(恐妻家?)だったのですね。
4.英雄の戦い
妻に尻を叩かれ元気になった英雄が、敵(批評家)に戦いを挑むという場面。舞台裏のファンファーレから始まる部分です。
戦闘を表すような打楽器の連打の中で、英雄と敵の主題が交錯し、時折り妻の主題が応援に入るという、単純と言えば単純な作りですが、目も眩むようなオーケストレーションが素晴らしい。
最後は英雄の主題が大見得を切って、勝利の凱旋のように冒頭部分が戻ってきます。
5.英雄の業績
この部分も単純明快、過去の業績を振り返るべく、自身の作品の断片が次々と出てくる構成です。
ただし、ドンファンやツァラなど分かりやすい部分もありますが、よほど聴き込んでいないと分からないような巧妙な織り交ぜ方も多くて、楽譜と睨めっこしないと、とてもすべては把握できないところがミソ。
6.英雄の隠退と完成
原題の"Weltflucht"の訳が「隠退」で正しいのかよく分かりません。「成就」と言ったりもするので、まぁそういうことでしょうか笑。
静かに穏やに生涯を振り返っているような部分で(34歳で?笑)、ここまで出てきたいろいろな主題が回想されます。しれっとベートーヴェンの「英雄」からの引用もあったりして厚かましいのですが..
終結部分は、英雄が妻に静かに看取られるような、ヴァイオリンとホルンの美しいソロのやりとりのあと、ツァラの冒頭を思わせる雄大な金管の上昇があって曲を閉じます。
ただし、これはリヒャルトが他人の助言をもとに後から書き加えたエンディングで、初稿はヴァイオリンとホルンのソロがそのまま静かに消えていくように書かれていました。実は当人もこの加筆は気に入っていなかったらしく「これじゃ国葬みたいだ」と言ったとかいう話もあります。
それはそれでご満悦だったんじゃないか、とも思うのですが、、曲としては美しいまま静かに終わるほうを取りたいですね。
さて、そんな名曲の演奏ですが、某Wikiによると「オーケストレーションが頂点に達している曲、技術的にもオーケストラにとって演奏困難な曲の一つ」だそうです。…そこまで難しくはないと思います笑
アマオケで気軽に取組めるほどではないけれど、まったく手も足も出ない曲でもない。ソロ・ヴァイオリンを担うコンマスがOKなら、あとはホルン8本集めるとか、トランペット5本とか、ハープ2台とか、...タイヘンですね苦笑
以前、小澤征爾があるインタビューでこの英雄の生涯に関して「1本の太い線の音楽になるのは嫌なので、それぞれの声部をはっきり聴かせようと頑張るのだけれど、いろいろな声部がうんと重なっているので、ある程度のところまでいくとそれが不可能になって苦しむ。でもドイツの指揮者なんかは、初めから太書きするつもりでいるから苦しみがない」と発言しています。
リヒャルトの素晴らしい情景描写は、その緻密で幾層にも重なる分厚いオーケストレーションから生み出されるもので、プレーヤーの技量はもちろんですが、それを整理する指揮者の力量も大いに試されるものであるということでしょう。
以前、このブログでリヒャルト・シュトラウスに触れたときは、ティーレマン/ウィーンpoやマゼール/バイエルン放送soのディスクをおススメしました。
どちらも超一流の指揮者とオケの組合せで、豪華絢爛なオーケストレーションを満喫することができる名演だと思います。
もう1点、ぜひ聴いてほしいのは初稿版を使っている演奏。
これも巨匠サヴァリッシュとフィラデルフィア管というゴージャスな組合わせで、エンディングが珍しいというだけでない、とても素晴らしい演奏です。
..自分の生涯を振り返るなんて、怖ろしくてできやしないと思うのだけれど、まぁ仕方ない、これから胸を張って振り返ることができる人生を送ればいいやと。