Chageソロアルバム「feedback」
2019.8.7発売
Chageさんのニューアルバムが発売されました。
CDの帯には「古き良きR&Rへwのリスペクトを込めて…」と謳っています。
新曲3曲とカバー3トラック(5曲)から成るまさにロックンロール・アルバム。
20回くらい聴きこみましたが… 「いいと思います!」
Chageさんのファンクラブequqlに入会されている方のところにはセルフライナーノーツが会報の掲載されています。
それを超える解説はできませんので、間奏やら原曲との比較やらを書いてみます。
アルバムについて事前に語られていたキーワードは「マージ―ビート」と「サイケデリックロック」。
マージ―ビートとは?
明確な定義づけは難しいですが「1960年代中頃にビートルズを中心にイギリスから世界に飛び出していったロックバンドのサウンド」とでも言うべきでしょうか。ビートルズの出身地であるリバプールを流れるマージ―川がその語源のはずです。
私がマージ―ビートと言われてイメージするのはホリーズ、サーチャーズ、ジェリー&ペースメーカーズ、ハーマンズ・ハーミッツあたりですがリバプール出身ばかりではないはず。ビートルズ風のキャッチーなでコーラスをフィーチャーしたメロディー、ちょっと軽めのリズム隊、衣装はおそろいのスーツを着てる印象。
広義にはローリング・ストーンズやキンクス、ザ・フーといった後にビートルズと並んでイギリス4大バンドと言われるグループも含まれるかもしれません。
要するに「”She Loves You”のような初期ビートルズのキラキラしたポップ感のあるロックンロール」のことです。
サイケデリックロックとは?
これも定義づけが難しいです。こちらもビートルズの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」に影響された実験的なロックミュージックとでも言うべきでしょうか?
私がサイケデリックロックと言われてイメージするのはジミ・ヘンドリクスやクリームの1stアルバム、バーズの「霧の8マイル」、ドノバンの1stと2ndアルバムあたり。たぶん定番すぎるくらい定番のイメージのはずです。日本ではモップスがサイケデリックロックだと言われていたはずです。そうです! 「feedback」の収録曲「たどりついたらいつも雨ふり」のモップスです。
要するに「ギターのフィードバック奏法や逆回転によるレコーディングなどを取り入れた従来のロックンロールの枠組みを超えた前衛的なロックミュージック」ですね。
チャゲアス、Chageさんのファンにこの辺りの音楽を聴きこんでいる人は少ないと思います。
そんなこともあってかequalの会報の楽曲解説ではこの辺りの用語解説がなされているのが面白い。
そんなマージ―ビートでサイケデリックロックな「feedback」を聴きこみましょう。
1 「Kitsch Kiss Yeah Yeah」
作詞:松井五郎 作曲:Chage
ラジオでこれを初めて聞いた時の興奮と言ったら…
「feedback」というアルバムタイトル通りのギターのフィードバックの爆音から始まるマージ―ビートでサイケデリックなロックナンバー。
韻を踏みまくる松井五郎さんの詞も楽しいです。
冒頭の「どっちならいい? どっちもがいい」はChageさんのライブで生まれたファンの名言「どっちもー」からのインスパイアだと信じます。
Chageさんの歌声は61歳のおじさんとは思えない力強く、はじけた、バカバカしいくらいに能天気な… あ~、とにかくカッコいい。
2 「たどりついたらいつも雨ふり~あの時君は若かった」
「たどりついたらいつも雨ふり」は1972年に吉田拓郎さんがモップスに提供した楽曲。同年に発表された拓郎さん自身の大ヒットアルバム「元気です。」でセルフカバーもしています。モップスは1960年代のグループサウンズのムーブメントから出てきたバンドですが、GSブームが終わってもその高い音楽性から本格派ロックバンドとして活動を続けました。
中心メンバーは星勝さん。井上陽水さんや安全地帯のプロデューサーと言った方がわかりすいです。ヴォーカルは個性派俳優としても活躍した鈴木ヒロミツさん。海外でも高い評価を受けているバンドです。
「たどりついたら雨ふり」は元は吉田拓郎さんがアマチュア時代に組んでいたバンドで演奏していた楽曲「好きになったよ女の子」の歌詞を書き換えたものです。
「疲れ果てて~いることは~」の部分は「好きになったよ~女の子~」と歌われていました。
思います…。歌詞を変えてくれて良かった…。すばらしい歌詞です。いつ聞いても自分のことが歌われている気になります。
モップスのライブ映像がありました。
「あの時君は若かった」は1968年にザ・スパイダースがヒットさせた楽曲。作曲はかまやつひろしさん。コード進行とメロディーが当時の日本緒ポピュラーミュージックではあり得ない展開。時代を先取りしていたかまやつさんの凄さを感じることが」できます。
私がアルバムをすべてそろえている唯一のGSバンドです。1960年代、つまり、昭和40年代にこんなサウンドを日本で奏でていたことが奇跡のようなバンド。後の芸能界、音楽界を支えていくとんでもなく豪華なメンバーだったことは言うまでもありません。
スパイダースのオリジナルはこちら。
この2曲をつなぐ? どんな風に?
イントロの「WOW WOW」で一気に期待もテンションも膨らみます。
「たどりついたら~」オリジナルのベースのドライブ感はこのカバーでもコピーされています。そして、凄まじい転調をして「あの時君は~」につなぎます。
Aメロのドラムとベースのアレンジがサビでの爆発を誘う呼び水のような絶妙なリズムになっています。
Chageさんのヴォーカルも伸びる伸びる伸びる伸びる。
ライブで聞きたい。その一言です。
3 Mimosa
作詞・作曲:Chage
春のファンミーティングで披露されたジャズナンバー。昨年にジャズのイベントに参加したことにより触発されて作られた楽曲です。
Chageさんからファン(=Chappy)へのラブソング。
力石理恵さんのデキシーランドジャズ風のアレンジが意表をついています。この楽曲だけアメリカのニューオリンズに行きましょう! でも西川進さんのギターソロが入るとロンドンの風も吹いてくるから面白い。
ベースに渡辺等さんの名前があるのが嬉しいです。
「螢」「紫陽花と向日葵」などジャズ風の楽曲も残してきたChageさんの楽曲に本格的なジャズナンバーが加わりました。
4 Love Balance
作詞:前野健太 作曲:Chage
この楽曲は事前にラジオでオンエアされていませんでした。どんな曲? 作詞がマエケン? 期待して聞きました。
凄い楽曲です。これがアルバムで一番好きです。
「&C」を彷彿とさせる質感のイントロ。
半音ずつ下がっていくコード進行。よくこのコード進行にこんな美しいメロディーを乗せられるなぁ。
楽曲として成立させることすら難しいコード進行ですよ。本当にこれ。
半音進行って実はASKAさんもChageさんも多用しているんです。チャゲアスサウンドの特徴の一つだと思います。
そして…「ここに映る世界は 鏡のような水たまりか」
マエケンの詞。すげぇ。あっ、語彙力が…
永遠に聴いてられます。新たなChageソロスタンダードの誕生だと思います。
5 好きさ 好きさ 好きさ~悲しき願い
「好きさ 好きさ 好きさ」は原曲は1965年のイギリスのゾンビーズが発表した「I LOVE YOU」。マージ―ビートサウンドのど真ん中です。しかし、それほど売れなかったシングルのB面曲なんです。しかし、日本で1967年にGSバンドのカーナビ―ツがデビューシングルとして発表し大ヒットしました。
オリジナルだと思っている人も多いと思います。若干16歳のドラマーのアイ高野さんの「お前のすべてを」の絶叫で当時の若い女性を虜にした楽曲です。
まずはゾンビーズの「I LOVE YOU」
そしてカーナビーツの「好きさ 好きさ 好きさ」
アレンジはほとんど一緒ですね。どっちも素晴らしい。どっちが好きか? って話題になることが多いのですが、私は「どっちもー」。
「哀しき願い」の原題は「Don't Let Me Be Misunderstood」ですから「誤解をされないようにして」というような歌詞ですね。
オリジナルはアメリカのニーナ・シモンが1964年に発表した曲。それを1965年にイギリスのロックバンドのアニマルズがカバーして大ヒットしました。
実はこの記事を書くために調べるまではアニマルズがオリジナルだと思っていました。それくらいアニマルズのVersionも素晴らしいんですよ。とにかくVocalのエリック・バードンの歌声が素晴らしい。とにかく最高のR&Bシンガーです。
アニマルズの「悲しき願い(Don't Let Be Me Be Misunderstood」
日本では尾藤イサオさんがアニマルズのカバーVersionをもとに日本語でカバーして大ヒットしました。今回のChageさんのカバーはその日本語のカバーのカバーです。ややこしい…
尾藤イサオさんVersion
オリジナルがカバーなのでその解説が長くなりました。
さて、Chageさんのカバーです。
原曲を聞いてもらったらおわかりかと思いますが、イントロは「悲しき願い」の印象的なリフから始まります。
しかし、歌は「好きさ 好きさ 好きさ」。
みなさん! ライブでは「お前のすべてーを」で「キャー!」と黄色い声援を送りましょう!
1番が終わると「悲しき願い」に移ります。歌声は尾藤イサオさんへのリスペクトを感じます。…というか真似も入ってるか、というレベルで歌いまわしも似ています。
そして…終わるかと思ったら、「好きさ 好きさ 好きさ」に戻ります。
最後の「お前のすべてをー」で黄色い声援を再び送りましょう。
そして、なんと2曲がほぼフルで演奏されているのに4分23秒。
6 二人だけ
矢沢永吉さんがいたロックバンド・キャロルのカバー。1973年にシングルのB面曲として発表され、後にアルバム「ファンキー・モンキー・ベイビー」に収録されました。作詞:ジョニー大倉 作曲:矢沢永吉 というキャロルの王道クレジット。
永ちゃんがリードヴォーカルというイメージが強いキャロルですがこの「二人だけ」はジョニー大倉さんが甘い歌声で歌いあげます。
改めてオリジナルを聞くとChageさんの声質とも似たところがあると感じます。
さて、オリジナルのギターアルペジオのバラードを「feedback」ではピアノバラードにアレンジしました。
間奏でチェロが加わります。
歌声は仮歌がそのまま一発で採用されたものとのこと。
ピアノのアレンジはシンプルそのもの。形だけなら私でも弾けるかも。
もちろん形だけですよ。
ジョニーさんの歌声にも負けず劣らず甘い、そして大人の渋さも加わった歌声になっています。
ラストにおもちゃのピアノ? ビブラフォン風のフレーズが入るのもオリジナルに倣っています。
キャロルの歌詞をほとんど書いたジョニー大倉さんが日本のポピュラーミュージックに与えた影響は果てしなく大きなものがありますね。
日本語と英語をまぜるこのスタイルの発明者は間違いなくジョニー大倉さんでしょう。
私が好きな音楽をChageさんも好きだと知れたことも嬉しいな。
オリジナルを知らない人は「feedback」をしっかり聞き込んでから遡って聴いてみてください。
今回紹介したYouTube動画もいいですが、ぜひCDなどでそのアーティストの他の楽曲にも触れてみてほしいです。
Chageさんもそれを望んでいるんじゃないかな。
いい歌がいっぱいあるよ~、って。
でも一番いいのは。
Chageさん。あなたの歌声ですよ。