今から約10年程前

静かの海にひとりでいたんだ。
そこには何も無くて。
はるか彼方の地平線を見つめていた。
周りにはただ影しかなかった。

来る日も来る日も地平線の向こうを思っていた。
僕はあの向こうへ行きたかった。
でも地平線はずーっと遥か遠くのままだった。
昼も夜もない。
太陽の無い世界で、僕はひとりで座っていた。

やってくるのは孤独と、時折激しい痛みだけだった。

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約8年程前

ある日静かの海にやってきたのは君だった。
君も太陽の無い世界をずっとひとりで彷徨っていたね。
僕らは偶然出会い、いくつもの言葉を交わしあった。
僕と君との共通言語は痛みだった。
それは激しかったけれど、ぼくらは支えあった。
お互いの痛みを、共有したね。
何度も。

でも僕は、勘違いをしていたんだ。
君と僕はふたりだという事を。
痛みをわけあって共鳴し続けた僕らは、ひとつだと思っていた。
僕は君の中に溶け込んで、いつしかひとつになれたような気がしていたんだ。

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それは小さな箱庭の中。
僕は宝物をたくさん詰め込んだ。
中心にいるのはもちろん君だよ。
君は小さな太陽を連れ込んでくれたね。

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それから月日が過ぎて。

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現在

僕は見失っていた。
自分の居場所を。太陽の昇る方向を。過去の道筋を。

君の声を。

今夜、僕は気づいた。
それはいつしか見た光景だった。
眩い光。耳を劈く音楽。複雑に混ざり合う色。
そうだ。ここは…

君の姿はどこにも無い。

大切にしていた箱庭はどこかへ置いてきてしまった。
その鍵の隠し場所も忘れて。
体温は上昇するばかりだった。
僕は今、酷い目眩と戦っている。

ここは地平線の向こう側。
僕がずっと、来たかった場所。
僕はいつの間にここへ辿り着いたんだろう。

視界がぐるぐる歪んで何も見えない。
方向感覚も全く失っていた。
君はどこへ行ってしまったんだろう。
どうして僕は、君を置いてきてしまったんだろう。

何も、思い出せない。
祭りの中、ぼくは神輿に乗せられている。

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君はまだ静かの海にいるね。
いつかの僕のように、座って、ひとりで。
錆びついて開かなくなった箱庭にはもう、関心が無い。
微かな波音に耳を欹てて。
僕はまだ、君を探しているよ。
また、一緒にふたりで地平線の向こう側を眺めよう。
僕の熱を奪って。目を覚まさせてよ。



おわり