世間一般的にはロザリーが愛称として正しいのだとは思うけど、なんとなく可愛いかなと、私はろざりんと呼んでいる。
ろざりんは喜怒哀楽が豊かなようでいて、今ひとつ自分の意見には乏しい子だった。
人の目を極度に恐れ、私の影に隠れていた少女もその後、姉や友人たちのおかげもあってか、よく笑うようになった。
相変わらず大人、とくにヒューマン族への恐怖心も根深く残ってはいるけれど、私の友人であるぶらっどんやぶたさんのおかげで、そちらも徐々に薄れつつある。
ぶらっどんは、正式に言うとBradbery.Eris嬢。ヒューマン族の盗賊で、気の強い姉御肌の女性だ。仲間との和や連携を重んじ、盗賊を敵から財宝を引き出すための道具のように考える連中を嫌っている。
ぶたさんは本名、ぶた・シェーンコップ。ヒューマン族の男性で、ぶらっどんと同様、何故かファミリーネームで呼ばれる事が多い。あれ? シェーンコップって、一般的にはファミリーネームの方じゃなかったっけ? よく陽に焼けた肌のがっしりした戦士で、バスタードソードの愛好家だ。無精ひげが目立つためか、お兄さんというよりは、おじさんと呼ばれる事の方が多いのではないかとも思う。また、宵越しの金は持たない主義なのか、もらったお金はそのまま武具の強化費用にと消えて行くらしく、一緒に呑みに行こうと誘ったら、遣いすぎで動きが取れなくなっていた、なんていう事態も時々発生する。困ったことだけれど、私もその気持ちは非常によく分かる。
閑話休題。
ろざりんは、いつでも私の後ろをついて回り、私のやることを真似た。
職業選択の際、私と同じ魔法使いを選んだ。
ちょっと待って。お願いだから待って。本当にそれでいいの?
本人は私の問いに、「大丈夫だよ、おねーちゃん。あたし、支援魔法を習得したら、僧侶になるの」と笑って言っていた。
まぁ、それは選択肢として十分にアリだと思う。私も魔法使いから、戦士になるつもりだしね。
あれから(お金の工面に丸一日を要したものの)いーにーの武器を買った後、ろざりんの使う武器を探して露天めぐりをした。「お願いだから安いのにしてね」と心の中で願いながら。
ぐるっと廻って、どれがいい?と訊いた私に、あの子は首を振って言った。
「おねーちゃんと同じのがいい」
より正確には、私が以前に使っていた、お古の杖を欲しがった。という事になる。
同じ杖を予備でもう一本持っていたのだけれど、お金を貯めて挑んだ魔力強化が成功したため、そちらの杖に乗り換えたという経緯が私にはあったからだ。
なんとなく愛着があったので、先日のお金の工面の際にも、手放さずに取っておいた。
なんとはなしに、いーにーの方を見ると、ご満悦の顔で買ってもらったばかりの戦斧を眺めていた。知らない人からは表情が乏しそうに見えるかもしれないけれど、あれは「えへへー」と相好を崩している顔だ。
放っておいたら、武器を抱いて寝ると言い出すに違いない。うちは三人で川の字になって寝るだけに、さすがに危ない。ベッドの下にしまっておきなさいと、寝る前にきつく言っておかなければ。
「大事にしなさいよ」と頭をわしわし撫でて、ろざりんの方を見ると、緊張した面持ちでこちらを見上げていた。まぁ中古とはいえ、私の『お気に入り』をねだるのだから、分からなくはないかな。
ま、しゃーないか。私は心の中でため息をひとつ。
「ごめん、こいつはあげられない。なんたって、私のお気に入りだからね」
私の言葉に、しまった、まずい事を言って姉の気持ちを損ねてしまったという表情。
あわてて「あのね、おねーちゃんごめんね。あたし、そんな」
「だから」私はさえぎって紡ぐ。
「こっちの杖をあげよう」今、現役で使っている杖を差し出した。
「あんたはまだ弱っちぃ見習いだ。だからこそ、ちゃんとした道具を使うべきなんだよ」
首をぶんぶん振って受け取りを拒否する妹に、無理やり杖を押し付ける。
しばらくの問答の末、しぶしぶ受け取ったものの、泣きながら「おねーちゃんごめんね」を繰り返す。
なれば私は、「謝るんじゃないよ。そういう時こそ笑って、『ありがとう』って言いな。さんはいっ」頭をくしゃくしゃと撫で、笑っていう。
嗚咽まじりではあったけれど、むりやり笑顔を浮かべての「ありがとう」
「おねいちゃんは強いんだぞ。見損なうなよー」もう一度わしゃわしゃと撫で、ニヤリと嗤う。
「さて、買い物も終わったし、今日は帰るよー。夕飯、何が食べたい?」
三人で手をつなぎ、帰路に着く。
少しオレンジになりかけた空と、立ち上る煙。あちこちの家で夕餉の支度が始まっているのだろう。その香りに刺激されて、お腹が鳴った。
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ブラックウッドスタッフ+5と+7は、魔法使い達にとってのベストセラー武器です。
無強化の杖自体は店売りの大量生産品ですし、性能もソウルランク3武器の随一。
ランク3から鍛練が解禁される事もあって、数多くの魔法使い達がこの杖を使用します。
前回の後書きで「新しい杖ほしいなーと貯めていた貯金を取り崩し」と発言しました。
知人のハァルセブル・サーキュリス氏が使っている『精霊の杖+7』は、同デザインで一回り強力な品(ランク4)、つまり「ブラックウッドの次の杖」なのですが、素体がドロップ品(店売り品はランク3以下の一部のみ)な事と、鍛練費用がブラックウッドの6倍かかる事を考えれば、トータルコストは、およそ8~10倍。
えーと……1000万ゴールドくらいかな?
……無理ですww
P.S.コスト内の鍛練石の割合を考えると、もっと安いかも。うまく行けば、200万くらい?
積み立てたお金で、断罪の斧を買うのに丁度いいくらいかな?