私の心に寄り添うことのない夫とSEXするより、マッチングサイトで見つけた適当な人に適当に褒められながら好きにされるほうが良い。


そう思ったのに、適当な人に適当に褒められても、どうぞ私を好きにしてください、とは到底なれなかった。




結局は約50人と顔合わせをして、私はKさんを選んだ。


6月末にKさんが私を不安定にさせたデート。あの発端は、奥さんを思いやるKさんの発言だった。



〜したいと思っているけど、そうすると、奥さんが一人で大変になっちゃうから。



それを聞いたときに、耐えられなくなった。私が日常で得られないものを…いいなぁ、Kさんの奥さん。浮気されていたって、奥さんは私より遥かにたくさんの理解という名の愛情を受けて過ごしているんだな。



思えば、選手くんも同じようなことを言っている。



うちの子はとても手がかかるタイプだから大変で。奥さんは専業主婦だけど、夕飯は俺が作るんだ。



節操なしのトップランナーさえ言ってたっけ。



もし奥さんが浮気しても離婚はしないかな。いつも家のことをやってくれているから。



どうして私と不倫する男は、揃いも揃って、奥さんの負担を気にかけ、彼女たちの貢献を評価しているのか。ほんと、みんな良い男…。



あーあ。奥さんが好きな男となんか寝てもつまんないわって、いつか嘘泣きしてみようかな。泣くのを優しく宥められながらするHも盛り上がるかもね。



そういえば、私もベッドの後でなら泣いたことがある。

初めての婚外恋愛のときだった。相手の男性は、私を初めての不倫に踏み込ませるだけの手練手管を持っていたが、私が彼を好きだったのは、実はシンプルな理由だった。

大人の関係になってから3回目の夜に言われた。



もう会わない方がいい。こうして会っていても、朝には普通の顔をして家庭に戻る君を信じられない。



なんでそんなこと言うの…。いやよ、もう会わないなんて言わないで!



セリフは少々盛ったが、ドラマみたいなやり取りに酔いしれて、マスカラがにじまないように目尻からぽろっと泣いたら、彼が私を抱き寄せた。



思わぬ暖かさに包まれるとなぜか本当に涙が出てきて、私は肩をふるわせてシクシク泣いた。

少し慌てた様子で、彼が私の頭やら背中を優しく撫でるのを肌で感じながら、思った。



ごめんね、あなたのことで泣いてるんじゃないの。



私は嬉しかったのだ。



ああ、私はこれでやっと、涙を受け止めてくれる男と寝る女になれた。