はじめに

この記事は、私の憶測を多く含んでいる点をご理解の上、お読み頂きたい。

 

ダイヤ改正で盛り上がるのは、鉄道マニアの年中行事であるが、京葉線のダイヤ改正は一般人にも広く認識されることとなった。

 

通勤快速の廃止というのは、JRにとってもデメリットが小さくない。各駅停車に変更となることで、車両・乗務員の動きが遅くなり、業務効率の低下につながる。また、電車は加減速時に多くのエネルギーを消費するため、各駅停車になるということは、電車を走らせることで発生する電気代が上がることを意味する。

 

JRは、混雑の平準化という理由を掲げていたが、その裏には何か別の企みがあるように思えた。その企みとは何なのだろうか。

 

 

 

 

 JRは通勤圏を縮小させたい(?)

今回のダイヤ改正から、何となくそんな企みがあるように思えた。というのも、京葉線の通勤快速が廃止になることで、不利益を被るのは、遠距離利用者たちである。しかし、東京から比較的近い快速通過駅の利用者にしてみれば、乗車可能回数が増えるため、メリットしかない。端的に言えば、遠距離利用者が冷遇され、短距離利用者が優遇されたのである。では、遠距離利用者を冷遇する意味はあるのだろうか。

 

遠距離利用者は、当然ながら近距離利用者よりも多くの運賃を鉄道会社に払う。しかし、多くの運賃を鉄道会社に払ったからといって、それが会社にとって大助かりになるとは限らないのである。結論から言ってしまえば、同じ人数を輸送するならできるだけ短距離で降ろし、そこでまた新たな短距離客を乗せることを繰り返した方が良いのである。山手線はそういうシステムであるため、大儲けできている。これはどういうことなのだろうか。

 

いくつかの具体例で考えてみよう。今回は京葉線のダイヤ改正に関する話題であるため、京葉線利用を例にしてみる。

 

①新木場から舞浜

 

新木場で有楽町線やりんかい線から、京葉線に乗り換えてディズニーに行く人も多いだろう。

新木場から舞浜の現金運賃は170円であり、同区間の距離はおよそ5kmである。この区間を利用する人は、1kmあたり約34円の運賃をJRに落としていることとなる。

 

②新木場から海浜幕張

 

次に幕張メッセに行くケースを考えてみよう。

新木場から海浜幕張の現金運賃は410円であり、距離はおよそ24kmである。この区間を利用する人は、1kmあたり約17円をJRに落としている。キロあたりの運賃は①の半分である。

 

③新木場から蘇我

 

新木場から、通勤快速で1駅の蘇我に行く場合を考えてみよう。

新木場から蘇我の現金運賃は680円であり、距離はおよそ36kmである。この区間を利用する人は、1kmあたり約19円をJRに落としている。②よりは客単価が微妙に上がってはいるが、①には到底及ばない。

 

④新木場から上総一ノ宮

 

このダイヤ改正では一宮町長が憤慨した。最後に、その一宮町の中心駅である上総一ノ宮まで行く場合について考えてみよう。

新木場から上総一ノ宮の現金運賃は1340円であり、距離はおよそ75kmである。この区間を利用する人は、1kmあたり約18円をJRに落としていることになる。

 

①から④の結果からわかることは、5km程度の短距離利用者の方が客単価は高いが、20kmを超えたあたりからは1kmあたりの運賃が17~19円になるように運賃が設定されているということだ。しかし、鉄道事業というのはキロあたりの運賃だけで評価できるほど単純ではない。

 

果たして、新木場から上総一ノ宮まで乗りとおす人が何人いるだろうか。東京駅を出発した上総一ノ宮行きの列車は、新浦安くらいまでは混雑し、その先はどんどん人が減っていくはずである。蘇我で、千葉方面からの客が補充されるが、その先はどんどん減っていき、最終的には余裕で座れてしまうはずである。しかし、列車の両数は東京から上総一ノ宮までずっと変わらず10両であり、人が少なければキロあたりの電気代が増大するのである。

 

つまりJRは、通勤快速を廃止することで遠距離通勤者に対し、職住近接を促したいのではないだろうか。

 

余談だが、鉄道は電車を走らせれるだけで良いというわけではない。ただでさえ重い電車が1日に何本も走れば、レールや架線は摩耗していくし、線路にもずれが生じてくる。メンテナンス用の車両が無ければ、電車を走らせることなど不可能である。路線距離が長くなれば、それだけメンテナンス用車両の走行距離が長くなり、燃料の消費量が多くなる。メンテナンス用車両は軽油を燃料とすることが多い。

 

キヤE195系。レールを運ぶ。

 

 

マルチプルタイタンパー。線路の歪みを直す。

 

 

 衰退する房総地区

房総半島の鉄道は、東京湾アクアラインの開通やその他の道路整備、レジャー志向の変化によって全盛期よりも利用者が少ない状況が続いている。

 

JR東日本は、新型コロナウイルス感染症をきっかけに鉄道のコスト削減を進めていくそうだ。既に房総地区では、半島南部のワンマン化・短編成化のメスが入っている。

JR東日本グループレポート2021 (jreast.co.jp)

 

木更津駅は、1990年代には1日2万人の乗車があったが、コロナ前の2019年でさえ13,000人に落ち込んでいる。

また、上総一ノ宮駅の利用者は、1998年をピークに減少傾向にある。そもそも上総一ノ宮駅の乗車人員は、1990年代ですら4000人を下回っている。そんな場所に10両編成の列車が直通してくること自体が異常なのかもしれない。今後コスト削減が進められれば、房総地区における短編成ワンマン運転区間は拡大すると予想できるし、JRとしてもそうしたいのだろう。しかし、中途半端に利用者が多ければ、下手にコスト削減を行うことで積み残しが発生する。通勤快速を廃止することで、コスト削減に踏み切りやすい状況を生み出したいのではないか。

 

房総半島衰退の象徴、E131系。

 

 

 おわりに

今後の人口減少は確実であるうえ、人々は便利さと仕事を求めて都市付近に移動し、地方の衰退は益々進むであろう。しかし、総人口が減っている以上、ほとんどの自治体で人口増加は期待できるはずがない。また、今回のダイヤ改正に対し、沿線自治体が猛反発したことにより、当該エリアのイメージがダウンしてしまったのではないだろうか。今となっては、地域の衰退も時代の流れとして受け入れることも必要であろう。無理に延命させれば、後の世代への負担が増えることを理解してほしい。また、地方の赤字路線の存在によって、都市部でも輸送サービスの質・量が共に低下する可能性も秘めている。一刻も早い路線整理をお願いしたい。