今日は仕事は休み。

ホットヨガの後、午後から府中市美術館へ。


都立府中の森公園の中にあります。

広大な公園の端にあり、最寄り駅(京王線東府中駅)から公園まで歩く時間と、公園の中を歩く時間と同じぐらい。
駅から徒歩17分だけど、半分は公園の中を散歩なので、体感時間は短いです。




諏訪敦さんの「眼窩裏の火事」という展覧会を観に来ました。





諏訪敦さんのことは知らなかったのですが、愛読しているブログ「青い日記帳」さんで「2022年 展覧会ベスト10」の3位になっていて、どうしても行ってみたくなりました。


写実絵画のトップランナーである諏訪敦さんですが、眼の前にある対象を目に映る通りにただ描く、という描き方ではないそうです。


肖像画を描く際には膨大で綿密な取材を行う、画家としては珍しいスタイル。

亡き人や過去の歴史的な出来事など、不在の対象を描くことも多いそう。

その人の家族に会ったり、その人が見た景色を見たりという経験を積み上げて、その人の内面を再構築するような感じなのかな。


出展作品数は多くありませんが、1点ずつ深く深く見つめていく感じで、とても見応えがありました。


第1章 棄民

お父さんの遺した手記から諏訪さんは、それまで知らなかった家族の歴史を知ります。

終戦直後に子供だったお父さんは家族とともに満州に渡りソ連侵攻に追われ、難民収容所に留められます。

そしてその年に祖母と叔父は栄養失調と発疹チフスで亡くなります。

(年始に観た「ラーゲリより愛を込めて」と重なる)

それを知った諏訪さんは、2012年と2015年、満州に行きます。

資料を集め、当時を知る人の話を聞き、家族が辿った道を辿り、そして作品に取り組みました。


そうして描かれた絵画「HARBIN 1945 WINTER」が痛烈に印象的でした。

雪原でやせ衰えて裸で横たわって亡くなっている諏訪さんの祖母。

最初に健康な体の裸婦像を描き、徐々に骨が浮き出るほどやせ細らせ、チフスの症状を描き、絵の中で死の追体験するように描いたそうです。

会場ではスクリーンで、描き重ねた各段階の絵が映し出されていました。

絵の中で無惨に朽ち果てた姿へ変容させたモチーフの尊厳を取り戻したいとの思いから描かれた「依代」という絵も展示されていました。


第2章 静物画について

油絵でガラスやイカの透明感、質感がこんなにも出るのかと驚きました。

写真にしか見えない。


第3章 わたしたちはふたたびであう

諏訪さんがたどり着いたという、「描き続ける限り、その人が立ち去ることはない」という感覚の意味を考えながら展示を見ていて、1枚の絵の前で気持ちがものすごく揺さぶられました。

戦場ジャーナリスト佐藤和孝氏の各年代の肖像画を描いているのですが、「三十歳代の佐藤和孝」、「四十歳代の佐藤和孝」、「山本美香(五十歳代の佐藤和孝)」と並んでいたんです。

山本美香さんは佐藤和孝さんの公私共にパートナーだった方で、2012年にシリア内線の取材中に銃撃を受けて亡くなりました。

この肖像画は2013~2014年に描かれたもので、山本さんの瞳の中に、同じく現地入りしていた佐藤さんの姿が描きこまれています。

山本さんの表情が、悲しそうに愛おしそうに見つめているように見えて、胸が詰まる思いでした。


この章の(そしてこの展覧会の)メインと思われる、舞踏家大野一雄さんの絵と、大野さんの影響を受けたパフォーマー・川口隆夫さんの絵もこちらに展示されています。

↑3枚目の画像でパネルになっている「Mimesis」。

ミメーシス、模倣の意味。


陳腐な言い方だけど、魂を揺さぶられるってこういうことかな。

今の余韻を記しておきたく、長くなりました。

読んでくださってありがとうございました。


諏訪敦

眼窩裏の火事

府中市美術館

2022/12/17---2023/2/26


諏訪さんご本人がこの展覧会の解説をされている番組が昨日あったのを、帰宅後に色々調べていて知りました。

明日TVerで観ます!

そして、諏訪さんの奥様は日本画家の松井冬子さんだというのも知って驚きました。


しばらく余韻が続きそうです。