さて、珍しく(←おい!)予告どおりの記事を書きます。
4月11日、イタリア文化会館で催されたNICT電磁波研究所の福永香さんによる「アートと科学:広帯域の電磁波で観たフラ・アンジェリコの壁画」講義内容のメモ起こし。
但し、当方、高2までは理系にいたが、曲線がグラフの周りを回転した途端にアタマがギブアップして文転したという文系人間ゆえ、ちょいちょい聞き間違い・思い違いはあるかもしれませぬ。
なるべく、ググったりして正確性を期したつもりではありますが、もし何か間違いを発見されたなら、ご指摘賜りたく、よろしくお願いします。
あと、青字で書いたところは、私の余計な注釈なんで、福永さんにはなんの責任もありませんことを、先にお断りしておきます。
なぜ、フラ・アンジェリコの『受胎告知』について語るのが、「電磁波」研究所の方なのか。
古いものを古いままにおいておきたがる日本人(古びがつく、とか、侘び寂び、とか、ね)には、なかなか理解しがたい発想なのだけれども、西洋絵画って、「修復」の名の下に、名作にひっどい手が加えられることが、ままあって(2012年にスペインの小さな町で、教会のキリストの絵をおばあちゃんが「修復」してひどいものになり果てた、というニュースは日本でさえ採り上げられていましたね)、その後世の「修復」から、いかにして元の名作を取り戻すか、というのは、ここ数十年の美術界のひとつのトレンドであるらしい。私が喜々として観ていた「システィーナ礼拝堂の『最後の審判』の修復」とか「ダ=ヴィンチの『サルバトール・ムンディ』はどこまでが真作か」なんていう番組は、それヌキにしてはありえなかったわけなんだけど、この分析過程がね、めっさおもしろいんですわ。(私には)
おかげで、絵画を科学的に、かつ絶対に傷つけないように分析する技術が長足の進歩を遂げた。
そして、その分析手法の中で、「光/電磁波」を当てて分析する、ということで、何がわかるか。
実は、「波」にも色々ある。
波長が短い方から長い方に並べると、
マイクロ波・ミリ波・サブミリ波・赤外線・可視光・紫外線・X線
となるが、波長が長いものの方がより小さい単位のもの、例えばX線や蛍光X線は顔料の元素を調べるのに向いていて、
波長が短いものは構造を調べるのに向いている。
赤外線はカーボン(炭素)に反応する。フレスコ画だと下絵(カルトーネ)の点を、日本や中国だと墨=炭素で線が描かれていることが多いので、木簡などは赤外線で分析する。
断面を調べるのには、MRIや超音波が使えれば簡単なのだが、MRIは水分(ジェル等)を調べるべきものに付着させなければならないし、超音波は一瞬とはいえ「接触」してしまうので、いずれも貴重な文化財の調査には向かない。
そこで接触を要さず、支持体/下地層/絵画層の構造を分析できる電磁波の出番となった。
美術品のデジタル化については、日立が膨大な実績を積んでいる。フィレンツェ大学と協力して、フィレンツェのウフィッツィ美術館の収蔵品のデジタル・アーカイヴ化を行った。
そうした「実績」に基づく「信用」が、美術品の作品調査には絶対不可欠で、NICTは日立とのご縁もあって、ジオットの祭壇画の分析を行い、国際的な信用を得ることができ、今回、フラ・アンジェリコの『受胎告知』の分析を託された。
ちなみに、ジオットの祭壇画はテンペラ板絵なのだが、構造分析の結果、今のテンペラ板絵ならば木の板の上に布を1枚貼って石膏を塗る。つまり1層の構造であるのに、この絵は2層構造になっていた。実はジオットからマザッチオの間くらいに、カンナによるすべすべした板を作る技術が発生するまで、まっすぐな平らな板というものがなかった。この為、板の上に一度塗ってから布を貼り、さらに石膏を塗る、という二度の工程を経ていた。したがって、この2層構造という構造そのものが、この絵がジオットの作品であることを証明した。
技法は中世、描いたものはルネッサンス、と言われるジオットに相応しい発見。
日本ではジオットの知名度が今ひとつなので、ハレー彗星の観測船が「ジオット」と名付けられたことについてさえ「ジオットってなんですか?」と言われる有様で、かなり残念な思いをした。
しかし、この実績がサンマルコ修道院のフラ・アンジェリコ『受胎告知』分析につながった。
分析の最大の障害は「埃」だった。
『受胎告知』は修道院の壁に剥き出しで描かれている。埃、蝋燭の煤等がかなり積もっていた。
後世の「修復」でマリアの衣裳の赤が剥ぎ取られている。今回の分析で、全体に赤い顔料が用いられていたことがはっきりした。
フレスコは描き直しのきかない絵画手法だが、分析によって、下絵(カルトーネ)から修正された箇所が数か所発見された。
印象的な虹色の天使の羽が、実は同じ顔料の濃淡のみで描き分けられていたことも判明した。
ほとんど剥落していて見えないが、マリアの頭上に白い鳩(=精霊)が描かれている。ここには金の成分があり、金箔が施されていたことがわかる。
分析は、万にひとつの誤りも許されないので、作品のポイントとなる人物等の重要モティーフは避け、絵画の一番下の辺り15cmまでの範囲で行った。
フレスコ画はもともと、漆喰に含まれた水分が反応し、炭酸カルシウム化して顔料を封じ込めることによって壁面に定着するもの。
したがって、時間をかけて描くことも描き直すこともできない。
分析により、フラ・アンジェリコはおそらく相当短い時間でこの絵を仕上げたらしいことが判明した。
また、この時に日立チームによるデジタル・アーカイヴ化も行われた。
デジタル映像は本物の迫力には勝てないかもしれないが、いくらでも拡大したり、近寄ったりして、研究することができる。
イタリア文化会館内の展示で、このデジタル映像が観ることができるので、是非時間を作って見てほしい。
後半は、『受胎告知』のデジタル映像を次々に見せてもらいながらのメモとなったので、もはや何が言いたかったのかわからない単語の殴り書きになっていた。くくく。
以上、思いっきり雑ぅ~なメモでありました。
※当ブログのような過疎地にしてデトックス用ブログからは、まことに僭越ながら。
神戸チャリティー演技会のアーカイヴを作っていただいたので、心からの感謝と共にリンクバナーを貼らせていただきます。

