仕事をしていると同僚20歳ののリズが、
「ミステリーショッパー」について何度か話題にした事があった。
最初のうちは、「変な行動をする客」だと思っていたが
それは全くの思い違いで、覆面調査員の事だと教えてもらった。
そう、知らないうちにフランスブランドの店に、覆面調査員が
がっつりチェックにやって来ていたのである。
土曜に「ツナ子、オーナーからのメール見た?
ミステリーショッパーの調査で、水準以下って判定が下って、
月曜に詳しい結果についてわかるらしいよ」と、言われたので
メールを見ると、何とフランスの本社から
「判定がsub standard(水準以下)で、crucial(かなりのひどい事態)」
などと、小難しい単語が並んでいてリズに
「何て意味?」と聞いて教えてもらい、私はびびった。。
理由は勿論、自分が覆面調印に当たっていたら恐ろしいからだ。
リズは覆面調査員についてやたらと詳しく、
「来店してから調査の詳細レポート作成に一月くらいかかる」とか
「だいたい実際に買い物するからレシートから誰が販売を
担当したのかわかる」とか
「外見の特徴についても書いてあって、誰だかわかるようになってる」
などと色々と教えてくれた。
今週は随分久しぶりに、ショッピングセンターの中の高級スーツケースを
販売する店舗に、1週間勤務出来る予定だった。
昨日の月曜には中国人の団体にスーツケースを7個販売に成功、
今日も更に2個販売という芳しい売り上げを出せて、シャロンストーン似の
店長とも久しぶりに一緒に勤務出来たのが、火曜日の今日また
フランスブランドの店に「ツナ子こっちに来させられる?」と
呼び戻されてしまった。2か月近く前もこの高級スーツケースの
店のシフトにやっと入れたと思ったら、フランスブランドで
仮病で延々と休む子がいた為、ほぼ毎日呼び戻された。
私は自分が一番売り上げを出せる店舗で、中国人の相手を
ばんばんしながら働きたいが、現実は全くそう出来ず
残念感をぬぐえない。
昨日、月曜にミステリーショッパーの調査書の詳細を知らされると
きいて、「あーー、怖いわー自分だったらって思うと」
とリズに言うと、「怖がる必要ないわよ、月曜にはわかるし」
と言われたが、その当のリズが調査員の接客をしなんとまあ
点数評価で、100点満点の、12.7点だったのである。
うちは直営のフラッグシップストアではなく、専門の加盟店だが
スゥエーデンの直営店では、80点以上だったそうだから、
滅茶苦茶ひどい結果である。
調査結果は様々な項目にわかれ、唯一満点だったのが
店の清掃具合であった。項目にはまず、入店した時に
誰も挨拶をせず、店員二人がキャッシャーの後ろに立って
話をしていた、とある。更に、調査員がコインケースを購入した際に
プロダクトのシリーズ名を言わなかった、迷っているのにプッシュしなかった、
メンバーの記入用紙を薦めなかった、購入後にドアまで見送らなかったなど
「そんな事うちの店では殆ど誰もやりません」な事てんこ盛りだった。
うちの店で客が入店したら挨拶を絶対するようにしてるのは私だけだ。
誰もいらっしゃいませを言わないのまずいやろ、と思って客が
来る度に絶対に言う。これは日本人だと何を当たり前の事言ってんねん
だが、店員同士がおしゃべりをしていたらやめない国の方が
世界的には多いと思う。
シリーズ名もしょっちゅう説明するし、迷ってる客にはソフトにプッシュ、
客が店を出るタイミングを待って必ずお礼を言うし、大きい荷物、おばあちゃん、
ベビーカーなどは駆け寄ってドアを開けるようにしているが、
そんなのはここでは私だけである。だからと言ってフィンランドの客はやっぱり
アジア人の妙なフィンランド語を話す私よりも普通のフィンランドの
販売員から購入する方が難しい客になればなるほど満足そうなので
やってる努力がむなしくもあるが、そこはサービス大国の日本出身なので
腐らずに続けなければと思う。だいたいフィンランド語が下手過ぎるので
客に馬鹿丁寧にして、クレームを絶対に防がねばと言う必死さがそうさせる。
ブランド店に来るおばちゃんには、世知辛い怖いおばちゃんも多い。
リズは頭はいいが、「そんなのやだ!」とめんどくさい事には
駄々をこねてみたり、掃除やゴミ捨てもとにかくやらずに済まそうとする。
フィッテイングルームにこもって携帯をいじったりもしょっちゅう。
「はあ~??」と言いたいが、彼女は店長に取り入るのがうまく
いつも大事にされていて、扱いの差に悲しくなるほどだったが、
覆面調査員のレポートにフランス本社にまで名前を知られ、
審判は下ってしまった。店長を筆頭に4人の販売員と、オーナーの母娘が
開店1時間前の9時から「今後の店の有り方」について会議をした。
オーナーは誰も責めたりせずに、「今後はキャッシャーの後ろに複数で
立たない、シリーズの名前を説明、同シリーズの小物も薦める、
メンバーへの加入勧誘」などと、具体的な方針を出したそうだが、
リズはその後10時から3時まで泣いていて、帰宅する事になり
「ツナ子を代理によんでしのぐ」事になってしまった。
明日もテレサが出勤しなかったら来てね、と最近私に愛想の悪い
店長にねこなで声で言われて、スーツケースの店での勤務が
また減りそうで、ため息が出る。
リズは随分ふてぶてしいところもあるが、優しいところもある
弱冠20歳の女の子なので、本社から「あんた13点。見た目も並み(実際に
そんな感じの事まで書いてあったが、美人で身なりもきちんとしているのに
これはひどいと思った)で、エレガントさゼロ」とまで書かれ、
プライドがズタズタになったのだと思う。
単純に、ものぐさで謙虚さがないところさえ何とかすれば
非常にいい子になると思うので、やめずに頑張って欲しいが
やめてしまうような気がする。彼女は仕事を始めた時は何と18歳だった。
日本なら18歳の子はブランド店には雇わないと思う。
これはオーナー一家が安い労働力を確保したいが為の策で
マネージャークラスは、「若い子はすぐやめちゃって・・」とみんな
愚痴っていた。確かに、リズのようにフィン語・スゥエーデン語・英語が
完璧で、おまけにロシア語もうまい人材で30歳を超えていたら
コストがかかる。でもこのままだと、「この加盟店、ダメ過ぎるから切って
スゥエーデンみたいに直営にしよう、利益はそこそこ出てるし」と、
誰かが決めてしまえばおしまいである。
オーナーも悪い。仮病を一月も使う女の子にブチ切れされて、
真面目で売り上げもいい仮病も使わない女の子をシフトからはずすという、
大間違いを修正しない為、最近ずーっとこの真面目な女子が
ふてくされていて、私にも冷たくなってきた。これが思いのほか辛い。。
その店直属の子よりも、私の方が一杯シフトに入って
いる為、面白くないのだ。私は勤務日数が保障されている契約の
正規社員だが、その子の契約書には勤務日数が書かれていないのだ。
ぶっちゃけこれは違法らしいが、店員の雇用契約はこういう事が
しょっちゅうあるそうだ。今月はあと二日なので何とか売り上げ1番で
逃げ切りたいが、無理かもしれぬ。まあ1年で一番売り上げの悪い2月に
一番になっても、あんまり意味ないか。