キム・ヘジン『中央駅』 | 新・法水堂

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『中央駅』

중앙역

 
 
著者:キム・ヘジン
訳者:生田美保
出版社:彩流社
出版日:2019年11月12日
 
出版社のtwitterキャンペーンにてプルーフ版を読了。
著者のキム・ヘジンさんは1983年テグ生まれ。
本書は昨年末に邦訳が出た『娘について』(亜紀書房/古川綾子訳)よりも前の2013年に出版され、第5回中央長篇文学賞を受賞している。
 
これまで何冊か韓国文学を読んできたけど、いちばん韓国っぽさを感じない小説だった。それはまず、主人公となるホームレスの男と、男と恋仲となる女に名前が与えられていないことが一つ(最後に男が女の名前を呼ぶシーンがあるが、その名前は明かされない)。
地名も出てこず、タイトルの「中央駅」も京畿道(キョンギド)に同名の駅があるようだが、どこにでもありそうな駅名。
自活勤労や考試院(コシウォン)といった韓国特有の言葉は出てくるが(プルーフ版ゆえか*はついているけど解説はなし)、必要最低限に抑えられている。
 
この作品を覆っているのは、持たざる者たちの閉塞感。
数パーセントの人たちが富を独占し、弱者はますます苦しい生活を強いられる。そういった状況は世界中で見られるものであり、韓国的なものをなるべく排除することによって、この作品は韓国文学の枠組を超えたものとなっている。
ラストも厳しい現実を照射したものとなっていて、文学に救いや希望を求めている人にはお薦めしない。笑
 
帯には「『82年生まれ、キム・ジヨン』に並ぶ衝撃!」と書かれているが、なぜこの作品を引き合いに出したのかはやや不明。てっきりフェミニズムが関係しているのかと思いつつ読んでいたけど、そういうわけでもないし。
ベストセラーの書名を宣伝に使いたい気持も分からないではないが、作品全体のテイストも違うし、かえって読者層を限定してしまう恐れもあるのでは。