妹が高校生の時、部活内でブランド物ってカッチョいいよね!と言う話が一時期ブームだったらしい。
それで帰宅するなり妹は、「お母さん! 何かブランド物、持っていたら頂戴!!」と頂戴頂戴アピールしていたのだが、残念な事に我が家にはブランド物なんて皆無であった。
というより、教員だった両親はブランド物に全く興味関心が無かった。
しかし、妹は、こんな事では引かない。
何しろ、次女特有の諦めの悪さをしっかり身に付けているのだ。
しつこいと言うか、粘り強いと言うか…。
バスケ部女子の勝利への執着、本領発揮である。
「(ブランド物の)あのマークがカッコいいんだよ、あれが欲しい! 皆が持ってるの! バッグに付いてるやつ! 見た事あるでしょ。買って!!」
と暫く何度も訴えていたが、恐らく「皆が持ってるの!」というのは少々大袈裟であろう。
だが母も負けてはいなかった。
私の母は、怒ったり怒鳴ったり大声を出すタイプではない。『笑顔で人をおちょくるタイプ』なのである。
母は子供が何か企んでいる時のようなニコニコ顔(もしくはニヤニヤ顔で)、こう言った。
「良いのがあるじゃない! 要するにマークが欲しいんでしょ。ほら、あれを鞄に貼れば良いのよ。子供用にあるじゃない! 丸くて大きな飛行機のワッペン!! 子供用がぴったりよ。直径10㎝くらいの。あれでも貼っておけば良いじゃん! カッコいいかもよ! 100均で買えるよ。あんたにピッタリよ、あはは。」
母は、いつものように笑い飛ばすと、こんな面白いことないわね、と笑い転げていたのだった。
「飛行機のワッペンなんて、どう見てもブランドには見えないでしょ。」と私もつられて笑いながら言ったが、妹の方を見ると、妹は既に戦意消失していたのだった。
そんな訳で、何があっても母には勝てない我等姉妹の、日常茶飯事的な戦いはアッサリと終了した。
妹は、これ以降、2度とブランド物の話を持ち出す事は無かった。
ブランド物の話を持ちだした所で、結局、母の圧倒的パワーの前では徒労に終わる事を彼女も学んだに違いない。
そんな妹は、数年後に大学を卒業した後、自分で稼いだお金でブランド品を買っていた。
さすが諦めない女である。
賑やかな母の笑い声や、溌剌とした妹の声は、実家を明るく照らし、ほんとに楽しい我が家だったと思う。
今から30年近く前の、懐かしい話である。