誰も言わない うつの本音 メンタル不調社員に悩む上司の本音: 2016年6月27日 西川敦子
メンタルヘルス不調になりやすいのは仕事を抱え込んでしまう「真面目人間」−−。そう思っている人は多いのではないだろうか。ところが、最近は必ずしもそうではないようだ。では、いったいどんな人が心の病気を発症するのだろう。そして、上司や周囲はどう対応すればいいのだろうか?
近年、職場のメンタルヘルス対策としてEAP(=Employee Assistance Program、従業員支援プログラム)という仕組みを導入する企業が増えている。米国で生まれ、日本でも2000年ごろから急速に普及した。国内におけるEAP専門機関の草分け的な存在であるジャパンEAPシステムズ(東京都新宿区)の松本桂樹社長にこれらの疑問を聞いてみた。
「真面目」「頑張り屋」がうつになる−−は誤解?
当社ではEAPを提供する専門機関として、メンタルヘルスに関する企業向けの相談活動、コンサルティングなどを行っています。EAPとは、ストレスや病気を抱えた個人のケアにとどまらず、職場全体のパフォーマンス向上に主眼を置いたプログラムです。メンタル不調の社員のカウンセリングだけでなく、そうした社員を部下に持つ人や同僚にも関わり、社員と組織両者の生産性を上げることを最終目標にしています。
私も長らく職場のメンタルヘルス問題に携わってきましたが、近年、当社に寄せられる相談内容は明らかに変わってきました。以前は「頑張り過ぎてしまう真面目な社員」のうつが多かったのですが、最近増えているのは「まだ仕事を覚えていない若手」の不調。発症するのは、入社1、2年目、もしくは新しい部署に異動して間もない人たちです。それも、もともとコミュニケーションがあまり上手に取れず、「他人と一緒に仕事をするのがちょっと苦手」というタイプが多いようです。
管理職からよく聞くのは、「心の不調で休職していた若手社員がもうすぐ職場に復帰します。正直、どう接していいかわからないんですよ」といった困惑の声です。数年前までは同じ管理職の相談でも、「信頼していた部下がうつで倒れたが、代役がいません」「周囲の分担が増えて困ります」など、戦力を失うことについての不安が多かったのですが……。
なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。
原因の一つとして考えられるのは、今の就活のあり方です。学生たちは面接のテクニックをしっかり学び、準備を重ねて採用に臨みます。ですから、企業側もその素顔を見抜けないのでしょう。学生のほうも、自己分析で自分のやりたいことについて考えすぎているので、実際に仕事を振られると「こんなことがやりたいわけじゃないんだよな」と悩むのかもしれません。結果的に、戦力として育つ前に心が折れてしまうのです。
コミュニケーションが苦手な人が増えたのは、インターネットや携帯電話の普及で、面と向かって会話する機会が減ったせいもあるでしょう。
退職勧奨したいがツイッターが怖い
さらに、管理職の本音を紹介しましょう。
社員に抑うつ症状などが見られる場合、本人の同意のもと、産業医が人事にその旨を報告する場合があります。人事が上司に事情を確認すると「彼(彼女)の仕事ぶりからして、もともとウチに向いていると思えない」「彼(彼女)を辞めさせることはできないのか」などと逆に泣きつかれることが多いそうです。若手を育成するのが上司の仕事ですが、それがままならないほど今の職場はハードなのです。欠勤が目立つうえ、会社ではやっていけないタイプとわかっていても、人事担当にしてみれば、簡単に退職勧奨することはできません。
「今どき退職を勧めたりしたら、ツイッターで“ブラック企業”などと批判されかねませんから。もちろん、簡単に人を切り捨てることなど企業にあってはならないことですが……」(A社人事担当)。
と、人事の本音もかなりシビア。上司からも会社からも放置され、心を病んだままで年次を重ねていく−−。今の企業ではそんな人がひそかに増えています。
仕事を減らしても元気にならない!?
欠勤を繰り返し、周囲とトラブルを起こしてばかりいるが、もちろん辞めさせることはできない。メンタル不調の若手に、上司や周囲はいったいどう対応すればいいのでしょう。「本人の問題だし、放っておくしかないよ」とため息をついている人もいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。もう一度、不調の要因に目を向けてみませんか。
ストレスは、ストレスの原因となる刺激、「ストレッサー」と、ストレッサーに伴う心身の異変の「ストレス反応」に分類されます。このうち見落としがちなのが、「ストレッサー」の程度です。本人のストレス反応の度合いはもちろんですが、残業や休日出勤のレベル、あるいは仕事の裁量や人間関係の問題など、ストレッサーがどのくらいあるかについて、しっかり見極めなければなりません。ストレス反応とストレッサー、両方のレベルを比べてみて初めて、ストレスに強い人かそうでない人かがわかります。
「仕事の負荷などのストレッサーが多く、かつストレス反応が高い」人は、ある意味“普通”です。ハードな環境であれば、不眠や肩こり、気分的な落ち込みなどが表れても不思議はありません。一方、「ストレッサーは少ないのに、ストレス反応が高い」人は、内的に何らかの葛藤を抱えている人かもしれません(ただ、介護など仕事以外のストレッサーが高いこともあるので、注意が必要です)。
「精神的に不安定なのは仕事がきついから。とにかく仕事量を減らすことだ」などと考えがちですが、必ずしもそうとは言えないわけです。
「月イチ面談」でお互いの距離を縮める
おすすめしたいのが、「ソーシャルサポート(社会的支援)」を手厚くすることです。ソーシャルサポートとは、簡単に言えば“上司や同僚が手助けすること”。ストレッサーとともにストレス反応の度合いを左右する重要な要素といえます。すでに述べたように、コミュニケーションに問題を持つ若手は職場で孤立しがちです。それだけに、上司や先輩が意識して声をかけることで、ストレスが緩和されやすくなります。ただし問題は、すでに述べたように時間や心の余裕がなく、なかなか丁寧に対応できない場合です。そんなとき上司がすべきことを二つご紹介しましょう。
一つめは、なんとか時間をやりくりし、若手社員と月1回でも定期的に面談を行うことです。忙しい職場では、じっくりコミュニケーションをとる時間もなく、簡単なやりとりになりがちです。面談でその社員の人となりや特徴もわかるでしょう。周囲に理解してもらえるだけで、本人も気が楽になります。
二つめは「ストレスチェック」についてきちんと告知することです。ストレスチェックとは、ストレスに関する質問票に労働者が記入するもので、2015年12月から従業員50人以上の事業場において義務化されました。上司は個人の結果を知ることはできませんが、部署のストレス傾向などは集団的分析によってある程度知ることができるでしょう。傾向を踏まえ、具体的な対策に生かしていくことも可能です。設問に答えることで、回答者自身が自分のストレスに気づきやすくなるという効果もあります。また、回答者のおよそ上位10%にあたる「高ストレス者」は、希望に応じて医師の面談を受けることができる仕組みなので、受診を促すきっかけになります。
イントラネットなどで告知されてはいても、何のことやら意外とよくわかっていない人が多いので、上司の口から一人一人に説明するとよいでしょう。
「アンタッチャブルなお荷物社員」「うつではなく単なるサボリ病」−−。メンタル不調の若手をこう片付ける人もいるかもしれません。しかし、何年も彼らをほったらかしにした結果、「一番活躍してほしい中堅社員が不調の人ばかり」と頭を抱えることにもなりかねません。そうなれば周囲も結局、ストレスを抱えることになるのではないでしょうか。悩みを抱える若手社員への理解を深めつつ対応したいものです。
