EU国別報告書の開示指令案と株主総会想定問答 | 日々、リーガルプラクティス。

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あまり税務関係の話題は取り上げることがありませんが、今日はこの話題。

最近(というかちょっと前に)話題となっているBEPSへの対策として、OECDはBEPSプロジェクトの最終報告書を出し、それに応じて、OECD加盟国を中心としてBEPSへの取り組みを国内法制化していますよね。日本も、平成28年度税制改正によって、連結決算ベースで1,000億円以上の多国籍企業集団の最終親事業体に、マスターファイルの作成義務が課せられることになり、また所定の規模以上の国外関連取引に係る関係会社に関するローカルファイル作成義務も明確化されました。そして、国別報告書(CbCR/Country-by-Country Reporting)の作成も義務化されます。

このマスターファイルとローカルファイルについては、これまでも(一定のローカルファイルはよく分かりませんが)それなりに多くの企業で作られていたはずだと思いますし、正直、どちらのファイル作成についても自分の業務には関わりがないので、あまり関心をもっていないのですが、自分が気になったのは、国別報告書です。

日本の税制改正では、国別報告書の提出義務なので、開示義務ではありません。しかし、EUでは、国別報告書の開示義務が案として出されているようです。EUの会計指令(Accounting Directive)の改正案として欧州議会及び理事会に提出されているとのこと。英国等、先立って開示が法制化されているところもある模様。

気になっている、というのはこのあたりに関してです。国別報告書は、各国における売上高とか経常利益、及び納税予定額等を一覧として記載するわけですが、例えば1カ国に1社の子会社しかないと、当該子会社の売上高とか経常利益とか、納税予定額とかがバレちゃうわけです。子会社の財務体質が開示されうる、というのは、結構ツライ場合もあるかもしれないですね。

また、この国別報告書が開示されることで、納税状況とか利益状況とかも明らかになるので、それに関心を寄せる株主なんかもいて、株主総会で質問してくる人とかも出てくるのでは、、、なんて。個人の株主が直接国別報告書を見に行くことはなさそう、と思いつつも、自社のウェブサイトでも開示義務が課される案となっているようだし、こういうのは、NPOとか、メディアが、取り上げて各社を比較する可能性もある(特にNPOはやりそうな気がする)ので、それを見て株主が質問してくる、ってこともあるかもしれません。納税額が高過ぎれば高過ぎるのでは?と言われるんでしょうかね。低すぎれば、それはそれで問題、みたいな。

そのあたり、どうなるのかなー、というのが、気になった、という話。

そういえば、米国では、ドットフランク法1502条に基づくSEC規則で、自社の製品に使われている紛争鉱物(Conflict Mineral)がコンゴ民主共和国その他周辺諸国(DRC)の武装勢力の資金源に利用されていないか、の調査報告書をウェブサイトで開示せよ、と義務づけていた部分が、表現の自由の観点から憲法違反、とされて不適用となったことがありました。さすがに今回の国別報告書は、こういう問題は生じないですかね。。。(状況が全然違うし)