伊藤レポートと資本コストと法務担当者の役割 | 日々、リーガルプラクティス。

日々、リーガルプラクティス。

企業法務、英文契約、アメリカ法の勉強を
中心として徒然なるままに綴る企業法務ブログです。
週末を中心に、不定期に更新。
現在、上場企業で法務を担当、
米国ロースクール(LL.M.)卒業し
CAL Bar Exam合格を目指しています。

ビジネス法務5月号にて伊藤レポートの件についての記載がありました。

まだ伊藤レポートは読んでいなかったものの、当該記事をざっくり読んでみて、「あ、これはかなりいい本一冊読むのよりも価値がある、というか大事だから読まねば」と直感的に思って読んでみました。日本版スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードの役割とかも、伊藤レポートを読んでから見てみると、よく分かるかな、という想いもありました。

そして結論、読んでめちゃくちゃよかったです。

現在の政府がどのような観点で動いているのか、なぜ改正会社法で内部統制の項目が追加されたのか、なぜスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードができたのか、なぜ政府が法人税の減税に躍起になっているのか、といったいろいろなことについて、点と点とが線で結ばれたような気分。

企業価値を向上させていかないと、厳しいグローバル競争において海外勢がより資金を得ることになって(株式は間接的なマネー)、その投資によって更に競争力に差が開き、日本企業の株価が下がり、業績も下がり、税収も下がり、給与も下がる。負のスパイラルが最も恐るべきものとして捉えている、ということがよく分かりました。

そして何よりも自分の中で大きかったのは、資本コストと法務担当者との役割との結びつきです。

(「資本コスト」という言葉の意味するところは、経産省のこのプレゼン資料を読んでみると分かりやすいです。)

どういうことか。

投資家がより長期的に継続的に投資するためには、資本コストを上回るリターンがなくてはいけません。そのために、資本コストを意識した経営をすべきである、ということがしつこく説かれています。これは、国際的にも一番分かりやすい指標で言えば、ROEが資本コストを上回るような数値で設定すべきで、これが伊藤レポートでいうROE8%。ただし、投資家が魅力を感じて長期的に投資をするかは、リターンが資本コストを上回るかであり、方法としては①リターンの向上②資本コストの低下のいずれか。

この点、企業価値の向上については、様々な考え方や要素がありますが、コーポレートガバナンスコードの一側面として、それぞれのステークホルダーに対して付加価値を生み出すようなコーポレートガバナンスを展開することで、結果的に企業価値が向上してリターンの向上につながっていく、という考え方が根底にあると思います。その一方、資本コストを下げるためにもこのコーポレートガバナンスがある、という点をよくよく理解しておくことが大事なことがよく分かりました。




資本コストと法務担当者の役割


例えば、内部統制はその構築と実行、及び監査等にコストがかかるものの、企業の事業リスク(や場合によってはレバレッジリスクを含めた企業ベータ)を下げることで、資本コストを下げる効果があり得るんだなぁ、というのが印象的でした。そういう「ファイナンス側からの視点をもった法務担当者の役割を意識すべきだなぁ」ということを強く感じました。しかし、これは株主との対話とか、株主へのきちんとした情報公開をなさないと、そのような結果にはつながらない。そこで、2つのコードがでてきたのでは、という。改正会社法での内部統制の運用状況の報告も、こういった考え方に基づいている気がちょっとしました。

内部統制と資本コストの研究については特にアメリカでいろいろと進められているようで、双方の関連性を仮説と検証によって導き出している研究は多数ある模様。


法務担当者としては、この企業価値の向上、つまり最終的なリターンにつながるような部分と、資本コストの低下の双方にかかわっている意識をもったうえで、それをどのように仕組みとして構築し、また外部発表・開示していくのか、というストーリー的な部分も意識しておくことがこれから重要になってくる気がしました。そういった意味で、これからの法務担当者は、資本コストのことが分からないと、いけないのかもしれません。

また内部統制やリスクマネジメントについて、開示側の視点も持つべきでしょう。開示自体も法的な視点からのリスクを検討すべきだからで、資本コストの低減と開示におけるリスクとのバランスを検討する必要があります。統合報告を採用している企業では、IR担当者と法務担当者との協業が重要になっているのかもしれません。

また、ROE等の数値目標を達成するために社内でそのためのKPI(Key Performance Indicator)を事業部や事業セグメント別に設定した場合、そういったところにコミットしようとしている部隊の行動等を鑑みたうえで、どういったリスクを排除してどういったリスクテイクはしていいと判断するか、という目線も必要になりそうです。

こうやって資本コストを意識した、ファイナンスとして好循環を生み出すような意識をもった3月決算の企業から、きっと、基準日をずらして株主総会開催日をずらし、投資家との目的をもった対話(エンゲージメント)をもって企業価値の向上と資本コストの低減を図っていくのではないかなぁ、と、今回の伊藤レポートを読んでそんな気がしました。(そういえばオムロンのIR室長の方は、上場企業で資本コストを意識していないのはあり得ない、と断言していましたね。。。)




伊藤レポートを読んで最後に思ったこと


そして伊藤レポートを読み終わって、更に思ったことが1つ。

スチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードが意味しているのは、より少数の銘柄への集中投資型のポートフォリオの推進(アクティブ投資の推進にあたる?)なので、自ら投資家とのエンゲージメントのためのアカウンタビリティを全うしない、または投資家からエンゲージメントを行われない企業は、自然と淘汰されていく気がしました。そしてエンゲージメントの促進は、幅広いポートフォリオ促進とは真逆の対応なので、その淘汰を促進する役割がある、ということ。


こうやって考えてみると、上場企業はいま、グローバル競争の中で、岐路に立たされている。そんな感じがしますね。

ここ3年で、「資本コスト」という言葉が流行りそうだなぁ。できる企業はとっくの昔からやっているんだろうけど。。。(先日の日経新聞で、パナソニックが資本コストの管理を事業部体制にする、みたいな記事がありましたよね。パナソニックは資本コストを経営の指標に入れたのは2000年頃から、みたいな記載があった気がします。流石。。。まぁ指標に入れればいい、というものではないんでしょうけれど。)