「Dear お前」



私が手紙を書くのも無理はありません。


今まで、お前をあの世から見守ってきました。


お前は、ストイック過ぎるほど体を酷使してきました。


そのせいで、今も体や足が思うように自由に動かない。


けれど、その腕1つで息子2人を立派に育ててきました。


私からお前に伝える言葉は、本当はもう何もないのかもしれません。


人生の酸いも甘いも知り尽くした人間だから。



こういう形でしか、伝えることが出来ないのを悪くは


思わないで欲しい。


私が若干、20代半ばで首を吊って自殺したことを


お前は責めることをしなかった。


そして、その胸にずっと刻んできたはずだよ。


「俺が兄貴の分まで代わりに生きてやろう」



懐の深いお前のことだから、全部、自分の責務だと思うに


違いない。だから、ほどほどにして、自分の体を汲んでほしい。


もうそういう時期にさしかかってるのだから。



あのとき、お前が私の体をゆすって、悔しがったのを今でも


忘れません。私は優等生過ぎたと人はよく言うけれど、実は違う。


責任を1人で抱え込みすぎたんだ。


お前と全く同じように体が強かったら、今でも生きていたかもしれない。


けれど、それは後の祭りに過ぎないし、ここで語る話ではない。



以前、お前が入院したとき、もっと生きて欲しいという願いが


あった。それは、お前自身だけでなく、家族全員がそう思っている。


だから、もっと生きなければ駄目だ。


私が言うと、いささか説得力がないかもしれない。


今後は、家族に託したほうがいい。


1人で抱え込むと、私のように自分を苦しめるだけだろうから。



死にかけた後で、息子から何を言われたか、覚えているか?


「無理するな。任してくれ」と言ってたんだよ。


その後、お前は心底、言ったはずだよ。


「迷惑かけてすまん。ありがとう」と。



ありがとう、という言葉に息子は戸惑ったに違いない。


なぜなら、今までお前がとってきた言動から、


そんな弱みとも取れる言葉を吐くとは誰も思ってないからな。


内剛外柔。頑固。


性格は昔から変わってないよ。


だが、それで家族の安泰が保たれてるのも事実だよな。



最後に1つ言わせてほしい。


体を酷使したお前にとって、1番の薬は蜜柑だよ。


急に何を言い出すんだ、と勘ぐらないで欲しい。


お前は、蜜柑を1人で育て、自分の体内に取り込んできた。


人間のからだは、水分で出来ている。だから、しっかり蜜柑に含まれた


水分をとりなさい。


土から吸い上げた栄養分を蜜柑に授け、また自分の体に取り込み、


そして、土に還す。


人間の基本的な循環で、長生きができる。



体は大事にしたほうがいい。


これからも、充実した日々を送ってほしい。


お前の心の中に生きている兄貴として、ずっと見守っている。


そして、家族全員が健康でいられるように願う。




兄貴より