映画と私とあっちゃんと小島さん | ハニービーは六角形

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名言格言、詩に短歌に俳句に都々逸に。
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それが読んでくださる皆様の『何か』となれば幸いです。

 

映画と私とあっちゃんと小島さん

昨日どうしても眠れなかった。

普段ならこんな時、絵を描くところだが

本当にバキバキに目が冴えていたので

観念して映画を部屋を暗くして見る事にした。

寝落ちもそれはそれで良しとしようと。

で、選んだのが

『町田くんの世界』だ。

全く予備知識もない、

誰が出ているかもわからない。

ただ、若い頃の嗅覚で

インディペンデントな活字だけで選んだ。

見てみると石井裕也監督映画だった。

私の嗅覚はもはや使い物にならなかった。

で、やっぱり俳優陣はガッチリ一線級の方々がいて

(どうやら後で調べると、主演の二人は演技経験がほとんどないとの事。)

映画はまぁ、おもしろおかしく見れた。

問題は前田敦子さん演じる栄(さかえ)という女生徒の口調と佇まいだった。

主人公と同じクラスで隣の席の子。

私の学校生活3年間席替えというものがなかった。

私が3年間、隣だった子とばっちり重なるのだ。

口は悪いが面倒見は良く、群れもしないが圧があるので

誰からも一目置かれる存在。

彼女の名は小島さんだ!

小島さんはよく私を呼んで

「これやってくれ、あれやってくれ」

と無理難題を言う困った人だった。

一方で私が教科書を忘れたりすると

何も言わずに席をくっつけてきて見せてくれる。

そういう心遣いの出来る何というか出来た人だった。

私が用事があり「小島さん!」と声をかけると

「何だ、はしゃいで。唐揚げでも入っていたか。」

と答えるという一言多い人なのだ。

「そんな人いねぇだろ。」と思うだろうが

一言一句盛らずに話している。

そしてもっと驚いたのは

作中で前田さんが鏡を見てビューラーを使うシーンがあった。

私はそれを見ておよそ鳥肌を立てた。

そう、小島さんはアイメイク命の人だった。

私も「まつ毛長いな、ビューラー試させろ。」と

実験台になった事がある。

しまいにはマスカラをつけられ

「よし。男前になったな。」

と意味の分からない事をされていた。

しかし、ある日を境に彼女との関係が親友になった。

彼女が彼氏と別れたのだ。

その時、さすがの小島さんも元気がなく

私は居た堪れず、

変な絵を描いたりして、おちょくって様子を見ていたが

「ちょっと聞いてくれ。」

と真顔で言われたので、

「じゃあ、体育館行こうぜ。」

といって彼女の話を授業をサボって聞いた。

いつも不愛想な彼女が泣いたのを見たのはそれが最初で最後だ。

彼女の元カレは私の親友の弟のクラスにいた。年下だ。

一通りの話を聞くと、どうやら浮気が原因だったようだ。

小島さんが話し終え、気が済んだところで

私は「どうする?」とだけ言った。

この問いにはいろいろな意味が含まれている。

それを察したのかどうかはわからない。

ただ、小島さんは

「まだ好きなんだよ・・・。」

と言うので

「じゃあ応援するぜ。」

って事になった。

私は秘かにその元カレに外堀から圧をかけた。

嫌な言葉だ。

でも手を汚さずにはいられなかったのは

やっぱり泣いていたところを見たからだ。

だから気取られず小島さんの手の届かないところでの応援をした。

しばらくして親友とプロレスごっこをしていた私の所に

血相変えた小島さんが来てこう言った。

「よりを戻したぞ!そして振ってきた!」

と身も蓋もない事を私に報告してきた。

私は

「台無し。もう台無し。最悪。小島さん最悪だよ。」

と半分呆れていった。

あまりに晴れ晴れとした顔をしていたので

「気は済んだ?」

と聞くと

「私は私の手でとどめを刺すんだ。」

と、怖い事を言っていた。

そしてその勢いでプロレスごっこに参加しようとしたので

そこにいた男子のほとんどに

「いやいやいやいや」

と、なんか引かれていた。

それからは彼女も加えて馬鹿な事をして遊んだ学校生活だった。

卒業をし、5~6年して

デパートで働く彼女と偶然再会した。

すっかり大人になり、なんだか色気も出ているように思えた。

私が「久しぶりじゃん」というと

「びた一文まけねぇ。」

と私に言うので

「中身そのままじゃん」

とツッコむと

「これでも人妻だ」

と勝ち誇ってきたので

「幸せそうで何より。」

と言って別れた。

彼女とはそれっきり会っていないが

元気だろうか。

そんな事を思い出させてくれた映画だった。

 

『町田くんの世界』