依頼主に代わって相手と交渉する弁護士は、どのような謝罪の言葉で相手の納得を引き出しているのだろうか。 『うまい謝罪』の著書がある弁護士の間川清氏に聞いた。
弁護士にとって、謝罪はタブーではありません。もちろん、依頼者側に全く非がない場合は謝罪してはいけませんが、そのような案件はそう多くはありません。 こちら側に少なからず責任があり、できるだけ損害賠償額を抑えたい、穏便に済ませたいという案件がほとんどです。その場合は、むしろ謝罪したほうがいいのです。
謝罪をすると、すべての責任を負わなければいけない、というイメージがあるかもしれませんが、法律の世界では、謝罪と賠償は基本的に切り離して 考えます。 責任を負いたくないために、 謝らずに済ませようとすると、大抵は失敗します。最初にきちんと謝罪をすることで、その後の交渉もスムーズに進む傾向があります。
うまい謝罪には2つのステップがあります。 第1ステップとして怒りの感情を発散させてあげる「ガス抜き」を行い、その後に第2ステップとして解決策を提示して許してもらうという流れです。この2ステップを踏まずに、 大して謝りもせず、いきなり解決策を提示すると、かえって相手の怒りの感情を爆発させてしまうことになります。
人に怒りを向けることは、かなりのエネルギーを使います。それだけに、 人は怒りながらも、どこかに許したいという気持ちを少しは持っているものです。その気持ちを刺激し、相手がこちらを許す理由にできるような言葉を投げかけるのです。
第1ステップでは、「このたびは本当に申し訳ありませんでした」と正面から謝罪するとともに、「責任はこちらにあります」と、責任の所在をはっきりさせることが大切です。 相手は怒 っていても、「自分にも少し責任があるのではないか」という感情を抱いているものです。その不安を取り除く言葉として、「責任はこちらにあります」 と明言することで、自分に責任がないことがわかり、相手はこちらを許しやすくなります。それに、自分の責任まで引き受けてくれると思うと、こちらに対して少し悪い気がして、心理的に許しやすくなるのです。「責任がある」 と言ったからといって、仮に裁判で争われても必ずしも「全責任がある」という意味にはなりません。万が一トラブルになった場合に、「あのときの言葉は、すべての責任ということではなく、責任の一部はあるという趣旨です」 と言っても、法律上は問題ありません。
相手の怒りの感情を発散させるには、とにかく相手にしゃべらせることです。相手が怒りに満ちているときに、どんなにいい言葉や解決策を投げかけても、相手には受け入れる余裕がありません。まず責任を認めて素直に謝ったら、その後はあえて沈黙して、相手にしゃべらせることでガス抜きをするのです。
人は気持ちが落ち着くと、合理的な判断ができるようになります。そのタイミングで解決策の提案を行います。
解決策とは、相手がこちらを許すための理由です。 なぜ許さなければいけないのか、許すとどういうメリットがあるのかを、相手に理論的に説明します。そうすれば、怒りの感情が落ち着 いた相手は理論的に判断して、許す行動をとるはずです。
ただし、その際に「許していただくと、こんなメリットがあります」という言い方をしてはいけません。相手に検討の余地を与えない提案は、相手を再び怒らせかねません。解決策を示す際に大事なのは、仮定として提案することです。例えば「仮に、次の取引の金額を1割減額したら、今回の件を穏便に済ませていただけますでしょうか」のように、あくまでも仮の提案であれば、相手にとって受け入れられない提案であっても、交渉の余地があることがわかります。なので、相手も感情的になりにくいですし、こちらとしても次の提案をしやすくなります。
間川清
プレジデント 2022.4.15 (プレジデント社)