「グランドハイアット東京」や「ジョエル・ロブション」などで研鑽を積み、 2012年にサービス世界コンクール で優勝した「世界一のサービスマン」宮崎辰氏。その「お詫び」の極意とは。
サービスは常に先を予測して動くもの。過ちを常に謝罪しているようでは、 一流のサービスマンとは呼べません。 特にレストランスタッフを束ねる司令塔的存在である「メートル・ドテル」 は、お客様が口を開くより前に、心の声を察する力が求められます。
とはいえ、どんなに最善を尽くしても、謝罪する事態は発生するものです。 お客様がご立腹されている場合、私ならどうするか。まずは現場に一秒でも早く駆けつけて、状況把握をします。
「何か大変失礼がありましたようで、 申し訳ございません。 もう一度、お話をお伺いしてもよろしいですか」と丁寧に目線を合わせ、話をお聞きします。
ただし安易に謝罪はしません。「とりあえずこの場を収めたい」という「逃げの謝罪」は相手に伝わり、「謝れば いいと思っているだろう!」と火に油を注ぐこともあるからです。しかし、 自分が責任を持つ場で、お客様が怒っていらっしゃることは厳然たる事実ですから、「(あなたを怒らせてしまい)、申し訳ございません」という意味で、誠実にお詫びします。 自分のミスでなくとも、お客様に懸念やお怒りがあるなら、真摯に寄り添い、不安を取り除くのもサービスマンの大切な仕事です。
怒りの原因が「お客様の誤解」だったケースもあります。料理に毛が入っているとクレームを受けて、調べたらお客様の毛髪だったことも、実は野菜の繊維だったこともありました。
しかし、仮に相手の誤解だったとしても、その事実を真っ向から指摘することは避けるべきです。 誰しも否定されたら嫌な気持ちになります。 そこで、「このような事例があることにお気づきくださり、ありがとうございました」 と感謝に変えることで、新たなコミュニケーションの糸口にするのです。 違和感を一蹴されれば腹も立ちますが、丁寧に寄り添ってくれれば、不信感は信頼に変わることもあります。
お詫びで大切なのは、「相手の気持ち」に立つことです。たとえば私は相手がお怒りの際、決して「なるほど」 と相槌を打ちません。 楽しい話題なら会話も弾みますが、怒っているときは無関心に響くからです。同様に「はい」 や「はあ」の連発も要注意で、「本当にわかっているの!?」 とさらに苛立たせることもあります。
というのも、それらの相槌は「自分が主語」の立場で発しているからです。 そこでなるべく問題を「相手が主語」 になるように頭の中で変換します。 すると、「(あなたの)おっしゃる通りです」 「(あなたに対して) こちらの配慮が足りませんでした」など、相手の心情に寄り添う言葉が出るようになります。
申し訳ないと強く感じたときは、礼儀や定型の表現などについて考えず、 「本当にごめんなさい!」と感情優位で謝ることもあります。その際に重要になるのは、目線、表情、声のトーン、 身振り手振りなど、「非言語コミュニ ケーション」です。 サービスマンは自らを語る代わりに、目と手で「私はあなたに関心があります」とメッセージ を発します。 お詫びする際、目や声が冷めていたのでは台なしです。 特に昨今はマスクで顔が覆われているので、 大げさなくらいでちょうどいいのです。
なお、お詫びの手紙は、あまりお勧めはしません。私の経験上、お礼の手紙を送ると大体反応がありました。 しかし、お詫びの手紙に返事が返ってくることはなく、何を書けばいいのか、 定かではないからです。 やはり相手の反応を見ながらでないと、どういう言葉が相手の心に届くのかがわかりません。どんなに気後れしても、お詫びは直接、相手に伝えるべきでしょう。 「お詫び」は相手との距離が近づくきっかけでもあります。 マイナスをプラスに変えるチャンスと考えてみてはいかがでしょうか。
宮崎 辰
プレジデント 2022.4.15 (プレジデント社)