人が複数集まれば、何人かがつるんで、誰かを「ハブる(排除する)」ことがある。それ自体は避けようがないのだと、精神科医きたやまおさむさんは言う。重要なのは排除されても「生き残る」こと。「ハブるのをやめましょうというスローガンが多いけれど、人は人を排除して生きざるを得ない部分がある」。誰しもがハブり、ハブられる可能性を持つ。そんな認識から書き起こした本書で、ハブる行為のメカニズムと、そこから抜け出すための方法を書いた。
「人生というのはどこかの部分で作り物の要素がある」と見るきたやまさんは、人の生を演劇になぞらえる。集団から排除されたとき、人は「悲劇の主人公」を演じてしまい、早々に潔く去ろうとしがちだという。自分が演じている劇を俯瞰してみる。もし「違う」と思えば、勇気を持って降りてしまうことも必要だ。「自分がどういう劇に出演しているのかを知ることによって、そこから充実した劇へと作り変えることも可能でしょう」
一方で、自分が誰かをハブろうとすることもある。「人をいじめたいとか傷つけたいとかいう感情はあってもいいし、それは自然なこと。けれど、自分に歯止めをかけて実際には傷つけないという態度をどうやって身に付けていくか」
人間は、社会と対するときの「表の顔」と、本音も含んだ「裏の顔」を併せ持つ立体的な存在だ。そんな二重構造を引き受け、知と情、愛と攻撃性のせめぎ合いの中で運動しているのが「私」であり「生きる」ということなのだと説く。
人の内面は複雑に入り組み、奥行きのあるものだという人間観には、ショービジネスの世界に長らく関わってきた経験が影響していると明かしてくれた。「私は舞台に立って歌っていたから、まるで演劇のようなしつらえになっている人生のありようというものを考えることができた。この本は、歌手や作詞家、医師としてこれまでやってきたことの集大成みたいなところがあるんですよ」
(「ハブられても生き残るための深層心理学」は岩波書店・1760円)
京都新聞 2022年(令和4年)2月12日