新型コロナ感染症が蔓延して1年半以上。ぼくたちは「感染」という言葉に過敏になっています。といっても、今回は感染症のお話ではありません。人とのかかわりのなかで人から人へと広がる"感染"についてです。
まずは、「類は友を呼ぶ」という言葉を裏付けるような、ハーバード大学のユニークな研究です。人間関係と肥満について、1万2000人を対象に32年間追跡調査しました。
その研究では、配偶者が肥満の場合、自分も肥満になる可能性は37%高まり、兄弟姉妹が肥満の場合は40%高まるという結果になりました。
夫婦はともに生活することで、似たような生活習慣になりますから、夫婦がどちらとも肥満になりがちというのも納得できます。また、兄弟姉妹が肥満になる確率は、生活習慣に加えて、遺伝的な要素も考えられます。
驚きはこの後です。友人が肥満である場合、自分も肥満になる可能性が57%も高まるというデータが明らかになりました。夫婦や兄弟姉妹よりも、友人のほうが確率が高いのはなぜなのでしょうか。
友人という存在ほ、人間的魅力を感じたり、尊敬できる人であることも多いけれど、いちばんは付き合うと楽しい人というのが大事な要素かなと感じます。その大好きな友人が肥満である場合、肥満に対する許容度が高くなるのかもしれません。
肥満かどうかで人を差別するルッキズム(※)は賛成できない風潮ですが、健康という観点から言えば、やはり過度な肥満は改善したいものです。  (※)外見的な美醜で人を評価する考え方
もし、親友が肥満だったら、自分も肥満でもいいやと思うのではなく、できたら一緒にメタボ予防をし、健康になっていく関係が生涯のいい友だちなのだと思います。スポーツや筋トレ、ハイキングなど体を動かす趣味を誘い合って、楽しく続けましょう。
ぼくは友人や仕事仲間とつきあったりするのが大好きですが、一人の時間も大切にしています。このバランスが大事だと思っています。
シカゴ大学の社会神経科学者の故ジョン・カシオッポ氏は2009年、「孤独感は友人の友人の友人まで伝染する」という研究結果をまとめました。
友人が少なく孤独を抱いている人は人間不信の感情が強く、数少ない友人との関係も断ち切って「孤立」してしまう傾向があるといいます。すると、関係を断ち切られたほうの友人にも、そしてさらにその友人にも「孤独」が"感染"し、同じことを繰り返すというのです。
つまり、集団の中に一人でも孤独な人がいると、そこから孤独が広がり、自らつながりを断ち切って「孤立」する人が増えていってしまうということです。
確かに人間は周囲の人の態度や行動から、たくさんの影響を受けます。身近な人が孤独の状態にあると、自分もその気分に引きずられてしまいますし、孤独な人が増えるほど、活気は失われていきます。
周囲に孤立しそうな人がいたら、ほどほどの距離感でいいので、上手につながり続けることが、高齢社会では大事なセーフティネットになります。コロナ禍では、直接会うことが難しくなっていますが、電話やメールで様子をたずねる、といったことならできるかもしれません。
では、健康にとって、どんな人間関係が望ましいのでしょうか。こんな研究があります。
オハイオ州立大学の研究では、女性42人を対象に、食後、グレリンという食欲ホルモンの値を測定しました。すると、一人でご飯を食べる女性はグレリン値が高いことがわかったのです。それは食後の満足感が得にくく、太りやすい傾向があることを示しています。
一方、厚生労働省研究班がアメリカの医学誌に発表した調査では、40~69歳の男女約4万4000人を対象に、人とのかかわりの多さと病気について調べました。人とのかかわりの多さとは、「秘密を打ち明けられる人がいるか」「自分の行動や考えに賛成してくれる人がいるか」「話し相手になってくれる友人がいるか」といった項目で点数化したものです。
すると、人とのかかわりが最も少ないグループは、かかわりが多い人と比べて脳卒中による死亡リスクが1.5倍に及ぶことわかりました。不思議なことに、この傾向は男性のみで見られました。女性はおそらく、ある程度、話し相手がいるのに対して、男性では話し相手がいる人といない人の差が大きいことが原因ではないかと推測します。
この2つの研究結果から、女性は肥満予防のために一緒に食事をする人、男性は脳卒中の予防のために話し相手になってくれる人が必要と言えそうです。
肥満や孤独が"感染"し、人とのかかわりが健康をつくるというのはなんともおもしろいですね。
最後にもう一つ、人と人が楽しく、健康に生きていくために大切な"感染"があります。
笑顔ややさしさの連鎖です。不安や孤独を感じるコロナ禍のいまこそ、自分から笑顔ややさしさを示すことで、周囲の人の心もやさしくなっていきます。そうしたいい連鎖を起こし、本物の感染症に負けない心を作っていきたいですね。

鎌田實
(毎日が発見  2021年11月号)