今の暮らしやこれからをよりよくしたいと思って、新しいことを始めたり、これまでの習慣を改めようと決意する方もいらっしゃるかと思います。でも、「忙しくて思うようにいかない」「体力がなくてうまくできない」「気力が続かなくてあきらめてしまう」など、さまざまな理由から頭で考えている通りには物事を進められないこともあるのではないでしょうか。
そんなとき、「ああ・・・・・・・うまくできなかったな」「思い通りに片づけられなかった」とか「どうして、自分はいつもこうなの?」「やっぱり私はダメなのね」と自分がしたことや、自身を責める感情を抱きがちなものです。「気分一新」と思って前向きに物事を始めたのに、いつの間にか自分への「ダメ出し」の連続で気分が後ろ向きになってしまっていたら、それはもったいないことです。
しかし、こういったダメ出しをしてしまうのは、私たちの国民性と言っていいのかもしれません。日本人は古来、「結果」と「行動」という2つのことを振り返り、分析しながら集団で稲作を行ってきました。稲作では、今年学習した知恵は、翌年生かせます。ですから、毎年、秋にどれだけ収穫したかという結果から振り返り、「あのとき、もっと田んぼへ水を送っておけばよかったのかも」などと生産手法へのダメ出しをし、効率を求めてきました。そして、稲作を集団で行うようになると、誰もが、みんなの輪を自分が乱してはいけないと思うようになりました。「自分はルールや文化を守れているかな」と行動を振り返るようになったのです。これは自分へのダメ出しです。結果に対してのダメ出しは、反省すればするほどに、生産の改善につながります。また自分へのダメ出しはつらいことではありますが、一方で人間が本来持っている成長したいと思う心を満たします。よりよく生きるための手段でもあるので、心身が元気なときはほどよいダメ出しなら、むしろした方がいいでしょう。
気を付けなければいけないのは、ダメ出しが度を越して自分を責め過ぎてしまったり、エネルギーが低下しているときにダメ出しをしてしまうことです。過剰なダメ出しは、気持ちをどんどんマイナス方向に導いてしまい、やがてうつ状態を招いてしまいます。
小学校では、嫌いな勉強でも、がまんしてずっとやれる粘り強さを育むために、「がんばり抜く力をつけなさい」「粘り強い子になりなさい」と何度も言われてきました。すると子どもは、与えられた課題をやり抜くための心を持つようになります。これを私は「子どもの心の強さ」と呼んでいます。「子どもの心の強さ」は、まっすぐな強さで、子どもの頃の成長には有効です。
ところが、これを大人になっても押し通そうとすると、心に無理が生じてしまいます。子どもの心の強さは直接的で柔軟性がないので、壁に直面したときには正面からぶつかるより他ありません。現代の日本でうつ病を増やしてしまっている原因はここにある、と私は考えます。
日本人の「ダメ出し」気質と、この「子どもの心の強さ」を押し通すことが組合わさると、自分へのダメ出しは過剰なものへと変化します。自分を振り返って目標に到達していなかったら、「子どもの心の強さ」は、「最後までとことんやれ!」「つらいからといって逃げてはいけない!」と語りかけてきます。途中であきらめてしまったら、「だから私はダメなんだ」と強く自分を責めてしまう感情も湧き起こります。不安を感じていたら、「不安に思う自分がダメ」だと思ったり、自信がなかったら、「自信がない自分がダメ」だと思ったり、何かを考えたり、感じたりするたびに、いちいちダメ出しを続けてしまいます。
そんな「子どもの心の強さ」に対抗できるのは、「大人の心の強さ」です。いろいろな価値観があることを認めて、自分を許し、自信を失わずに励ましていくことのできる力です。「つらければ避けていい」「嫌なら上手に断っていい」「できないこともあると認める」心です。大人の心の強さは成長が緩やかになる私たちには必要なものです。子どもの心の強さは一人でやりきることをよしとするので、誰かに頼ることは苦手です。逆に「何でも自分で」を貫かない、人に頼れるのが大人の心の強さです。それが持てると、さまざまな場面でだいぶ気はラクになり、過剰なダメ出しをしてしまうことを防げます。
頼ることに慣れるための練習をしましょう。例えば、家を片づけたいけれど体力がなくなってきているのなら、独立した子どもに「今度来るついでに一緒に片づけてくれない?」などと、小さなことから人に頼る練習をしてみるのもいいです。片づけが自分の思い通りにいかなくても、その結果は気にしない。とにかく人に頼る回数を重ねていってください。
他にも、目標に達することができなかったことでも、「よくやった」と自分を認める練習をするのもいいでしょう。失敗したとしても3割は自分をほめる。どんなに悪い結果であっても、ほめどころはあるはずです。
「ダメ出し」と「子どもの心の強さ」を結びつけないように、またそこから解放されるために、15の心の特徴を知っておくことも大切です。
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1. 人の心は一貫しないもの
人の心には、さまざまな感情が同時に湧き起こり、時と場合などでコロコロと変わる
2.  感情や欲求はなくせない
心に起きる複数の感情や欲求は我慢して一時的に抑え込んでも、ゼロにはできない
3.  人はエネルギーを使いたくない・怠けたい
人の命に直結するエネルギーを保存するために、生死に関わらない作業はすぐに飽き、続かない
4.  人はなかなか成長しない・変わらない
「成長したい」は人の基本的欲求。だからといって、すぐ簡単には成長できるものでもない
5.  でも、人は変われる・変わりたいと思っている
人は体験を何度も繰り返したり、長く経験したり、イメージの力で変わることができる
6.  人間関係のトラブルは当たり前
人は一人では生きていけないので、本来は恐れの対象である他者と近づいてしまう。そこにトラブルは発生する。
7.  人はそれぞれ、正義もそれぞれ
人が大切にすることやツボに普遍性はなく、人それぞれである
8. 自分を基準に、他者の内面を決めつけがち
相手が自分と違う感じ方をするという前提がないので、被害者的視点になりがち
9. 人は他人をコントロールしたがる
自分の安全のために、他者を従わせようと、わがままになったり、優位な立場に立ちたくなる
10. 人の言動、反応には理由がある
他人には愚かなことと思うような言動も、その人なりの理由がある
11. 人は物語を見つけ、安心したい
現状を理解し、不安を小さくするために、いろんな解釈、すなわち物語を持とうとする
12.  子どもの心の強さを求めがち
一人でやる、全部やる、最後までやる、といった小学校で習ったあきらめない系の思い込みが強い
13. 論理的・客観的でありたい
論理的・客観的なことを重視して、感情的なことを恥ずかしいと考えがち
14. 人は自分を責めやすく、自信を持ちにくい
人は、自分には悪いところが多くあり、それを他人に隠していると思い込みやすい
15. 人は過去の記憶と将来の不安にとらわれやすい
将来の危険を予測するために、人は過去のデータを検索する。しかし、その過去にとらわれ過ぎると今すべきことを見失いがちである
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人間の心は決して理路整然としたものではありません。むしろ、とても適当なものです。ところが、「子どもの心の強さ」が大きくなり過ぎると、本来の心が持っているはずのさまざまな特徴を、自分自身で抑え込んでしまうことになります。
15の特徴の中でも特に重要なのは、「人の心は一貫しないもの」です。例えば、三日坊主になってしまったとき、「やると決めたんでしょ?」と人からも非難されるし、自分でもそう責めてしまいます。目標を決めたら、「ちゃんとやるべき」だと考えてしまいがちですが、気力や体力が十分でないときは、やる気はいくらでもしぼんでしまうものです。三日坊主にならずに続けられたなら、それはたまたま幸運だっただけです。
人の心は、「好き勝手」なものです。そう思うと心がラクになりませんか?一貫しなくて当たり前。三日坊主でも当たり前。片づけられなくて当たり前。ダイエットできなくて当たり前、です。なんとしてでも達成しなければいけないという「子どもの心の強さ」から解放されたら、必要以上の自分への「ダメ出し」を減らすことができ、これからを前向きに進んでいけるようになるでしょう。

下園壮太さん
ハルメク(2021年7月号)