日本人は自分の意志で決断したことでも、「この度、就職する運びとなりました」など、あたかも自然にそうなったような言い方をします。西洋人が、自分の意志は、自分でコントロールできると考えるのに対し、日本人は、自分の意志の背後に、自分の力ではどうすることもできない自然の大きな力を見ていると考えられます。

また、日本には「自然にまかせる」という表現があります。日本人は決断を偶然や成り行きにまかすことを自由と捉えることがあります。自分の意志通りになることを自由とする西洋人とは大きく異なります。

またキリスト教は、人が利用するために神が自然を創造したと説きます。これに対して日本仏教は、人は自然に含まれており、個人にいくら強い意志があっても、自然が拒めば、個人の意志は諦めるしかないと説きます。ここにも自然観の違いを見て取れます。

さらに、日本語は「みずから」「おのずから」も同じ「自ら」と書きます。つまり日本人にとって、自分の意志は、自然の成り行きと同じなのです。

和歌、俳句、絵画、建築、花道、茶道など日本の芸術は最終的に自然をテーマにします。その理由として九鬼周造は、日本では、自然なところまで行かなければ道徳が完成したとは見られないからだと考えました。


続哲学用語図鑑  中国・日本・英米分析哲学編  (プレジデント社)