第十四章

燃え尽きて灰に(その五)

 

ジェフは、インドラ デーヴィ女史からマントラ(真言)を与えられたので、その正しい唱え方を知りたいと言った。ババは、その手助けをすることに合意した。私は、よくババが、神の御名を唱えるように人々に助言する際に、ジャパマラ(念珠)と呼ばれる、百八個の数珠玉のついた、ロザリオに似た宗教的な首飾りを使うことを奨励するのを知っていた。それは、数珠を一つ繰るごとに神の御名を繰り返して唱えるためのものである。

私は心の中で、「そうだ!きっとババは、ジェフのためにジャパマラを物質化するつもりだよ!」と言った。

ババを見ていると、彼は、自分の背中の後ろから、本当にジャパマラに見えるものを取り出して左手に持ったのである。ババはジェフに向かってずっと話し続けており、私以外には誰もババの左手に注意している者は見当たらず、気づいていたのは私だけのように思われた。私の心が動き始めた。

「ババは、本当は、いつも背中に品物を隠している、つまらない手品師に過ぎないのではなかろうか?周囲の状況を忘れて、背中から首飾りを取り出して、私の目の前で、それを使って小細工をしようとしているのか?・・・まったく、私は何と馬鹿なことを考えているんだ!」私には、自分の心が、この疑いを追い払いにかかる前に、重く沈んでいくのが感じられた。いや、私は、ババのいたずらに引っかかって、ババが悪い手品師だと考えるようなまねはしないでおこう。ババは至福に満ちた微笑みを浮かべながら私たちに話し続け、私は、その左手を注意深く見守り続けた。

左手はいったんババの背中に戻り、また前に出てきた。私には、そのジャパマラを、ババがいかにも自分が物質化したかのようにジェフに渡そうとしていることが分かっていた。すると突然、ババがいつものような空中で水平に円を描く仕草を右手で行うと、そこには美しいジャパマラが出てきた。···そしてそれは、左手にあったのとはまったく違うものだった。左手に見えていたものは、もうどこにもなかった。

私はこのような事態の展開に、呆然としてしまった。私の疑い癖は今に始まったことではなかった。いつであれ、自分の信仰は確固として揺るぎないものだと信じ始めて、自分の信仰を誇りに思い始めると、疑い癖が必ずその醜い頭を持ち上げ、私は混乱の霧に包まれる。私は、ババが私を破壊しようとしていることは分かっているのだが、このような疑いの反応の前に、自分はほとんど無力であるように感じる。

ババは、概して私を無視しながら、私以外の三人の男性に向けて話を続けた。私はそれを嫌だとは思わなかった。私はまだ、ジャパマラの件から立ち直ろうとしているところだった。ババは、自分はいつも私たちにじかに触れているが、私たちがババに手紙を書きたいと思う時にババの住所が分かるようにと、皆に名刺をあげようと言った。彼は空中で手を回し、当然のことのように三枚の名刺を物質化して、ほとんど私の方を見もしないで、私以外の三人に、それぞれ一枚ずつ渡した。

このとき私が驚いたのは、六か月前の短いインタビューで、今ババが物質化したのとほとんど同じ名刺を、私がもらっていたことだった。ババは、自分がそれを覚えていることを私に示そうとしていたのだろうか?またババは、私が疑い交じりで考えていたよりも、はるかによく私のことを知っているということを、私に示そうとしていたのだろうか?ババは、毎日何百人もの人に会う。ババのもとには人々が殺到している。名刺の物質化や、このようなことをまったく何気ない様子で行ったババのやり方は言うに及ばす、ババが六カ月前のあれほど小さな出来事を覚えていたかもしれないという事実そのものが賞賛すべき技であるかのように、私には感じられた。間違いなくそれは、不思議なジャパマラに囚われていた私の心を、その出来事から引き離すのを助けてくれた。

このような実地教育を受けて、私は自分に向って、次のように戒めることを学んだ。「サム、あのようなトリックには、一切引っかかるな。破壊されたらだめだ。何も期待せず、何も望まず、何も要求するな」。私は、疑いや傷ついた気持ちではなく、満面の笑みと共にインタビューの場を後にした。そしてババは、翌日かその次の日あたりに、再び私たちを呼んで、さらなる個人面談を与えてあげようと言った。

あらゆる条件のもとで、すべての力の源であり、その実体であり総体である、神に重きを置きなさい。···そうすれば、あなたはその源から、あなたが必要とするすべての力を引き出すことができます。このように神に重きを置くことが、バクティ(神への愛)と呼ばれています。

大海原の真ん中で、暗い群青色の水の上を飛んでいる鳥にとって、休み場は、唯一、航海中の船のマストの上だけです。同様に、神は、変化し続ける海に吹く嵐に翻弄される人間にとっての、唯一の避難所です。たとえどれほど遠くまで飛んで行っても、鳥は自分がどこで休めるのかを知っており、その知識が鳥に自信を与えています。鳥は、そのマストの姿を、絶えず心の中に思い描いています。その姿は鳥の目に焼きつけられています。神の御名はあなたにとってのマストです。いつもその御名を思い出していなさい。その御名を、御姿に結びつけ、その御姿を心の目に焼きつけておきなさい。御姿は、あなたのハートの奥で光を放っているランプです。神の御名を舌に乗せておきなさい。そうすればその御名が、心の中と外の闇を追い払ってくれます。内には平安、外には友愛···これが、ナマジャパ(神の御名を唱えること)に携わっている人の徴です。

二〜三日後に、私たちは再びスワミに呼ばれた。私は、自分が準備万端で、ババのどのようなトリックにも引っかからずにいられると感じていた。そしてきっぱりと自分につぶやいた。「僕は今日、ババに引っかかることはない。僕は破壊されないぞ!」私たちが座ると、ババは私を見て、「君は頭が混乱している」と言った。

私は自分の気分が落ち込み始めたのを感じたが、すぐに自分に言い聞かせた。「いや、僕は破壊されないぞ。ババの批判も、ババのトリックも、今日は、何ひとつ僕を破壊することはできない」。ババは相変わらず微笑みを浮かべて私を見ていた。

「モンキーマインド(サルのようにあちこち飛び回る心)」。彼は、優しくからかうような調子でそう言った。

ババはそのまま他の人々と話を始めたが、しばらくすると再び私に話しかけた。「あなたは何を望んでいるんですか?あなたは前にもここに来ましたね」。「ババ」私は悲しげな声で言った。「私はあなたの中に溶けてしまいたいのです」。

いいですか、まずあなたは光の中にいます。次に光はあなたの中にあります。それから、あなたと光は一つになります。···私は再び気分が落ち込み始めた。自分の反応を止めようとしても、もう遅すぎた。私は大変な苦痛を感じ始めていた。それは大きな失望感であった。私の混乱の霧には、今やひりひり痛む疑いの傷口があった。

「これは僕の三回目の旅だ」と私は思った。「毎回が二万五千マイルの旅で、僕は苦労して三回もアヴァター(神の化身)の傍らにたどりついた。それなのに、彼が言うことと言えば···陳腐な決まり文句だ!僕は彼がこのように言うのを、すでに百回も聞いている。これは僕にとって、またとない機会だった。・・・なのにもう、それは過ぎ去ってしまった」。

ババの言葉は空中に消えていった。ババはスティーブという名の男の方を向き、自分の腕を彼に回して、笑いながら優しく彼と話し出し、スティーブ以外の誰も知ることのできないスティーブに関する物事を知っていることを示した。すると私は、嫉妬を感じ始めた。ババは、スティーブの首に、いかにも安物に見える鎖のついたメダルが掛けられているのを見つけた。「私が君に良いものをあげよう」と、ババは言った。

 

SAI RAM NEWS  No.131  2010年 3・4月号  

(Sathya Sai Organization Japan)