家元を譲って10年、この間、「無手勝流」でやって


きた。家元というのは神経を使い、ひとことひとこと


にも責任を持ち、慎重にしないといけない。門弟にさ


まざまなことを伝えきる責任もある。 


 家元を離れれば楽隠居できるが、私はそれ以外の活


動に力を注いできた。外に向けて、自分のやってきた


ことの後始末を意識してきた。


 茶道のすべてを身につけて向かっている。「守破離」


(教わった型をまず守り、打ち破って自らの型を作り、


それからも自由になるという思想)もすんで「忘」の


境地。一つのことに拘泥していてはいけない。忘れて


こそ、すべての道を究められる。 


 いくら形を整えても、心を整えないと滅びる。日本


の文化・経済は、今は縮んでいる。


 「心して」って言うでしょ。大好きなの。「心して」


は押しつけではない。温かいひとさまの思いだ。これ


が救いの一手である。  


 世界各国を見渡しても日本人の教養は高く、エチケ


ットが優れている。節度、折り目けじめがあり、時間


を守る。清潔感もある。


 日本には大事にしなければならないものがたくさん


る。一番大切な「生活文化」を受け継いでいかないとい


けない。家庭的雰囲気やもてなしの心。そういうものを


発揮するために、お茶を学んでほしい。点前作法ではな


く、人間の心構えができる。心を整えることができる。


どんなところに出しても恥ずかしくないマナー、エチケ


ットが身につく。そのもとが茶道。もっと日本のよさ、


いいものを身につけるようにしてほしい。


 お茶を学ぶ外国人留学生を「みどり会」で育てて40


以上が過ぎた。世界各国から2千人以上が訪れ、また自


国で茶道紹介に努めてくれている。理解しようとする


ものは、何でも理解できる。


 私自身、和洋折衷。キリスト教の学校で学び、寺で


禅の修業もした。それがよかった。あらゆるところへ


行って、あらゆる方にお茶を点て、利休さまの道を伝


えた。振り返ってみると、長い道のりだったがあっと


いう間だった。いろんな思い出もある。いい思い出を


整理して、次の世代に残していきたい。


 「先憂後楽」。宋の仲淹(ちゅうえん)の言葉だ。


みな苦を背負って生きている。その苦をなくすために、


心を見つめ直さないといけない。


 若い人は大いに失敗すべきです。そこでだめだと思


わず、前に少しでも進むべきだ。投げ出さず、辛抱す


ることが大事。前向きの姿勢で、知らぬことを知らぬ


ままで済まさず知る努力を、自分に叱咤激励をしてほ


しい。


 私はあえて語り部であり続けなければ、と思ってい


る。体験をもとに、平和につながる茶の心を強く深く


伝えていかなければならない。日本の将来のため、世


界中の若者のために。



     千玄室さん 京都新聞(2013.5.2)