おはようございます
占い屋 リーリエ リリー
百合音です
さて、ゴールデンウィークですね。
置き記事させていただきます。
いちおう、娘が
「面白かった。続き、はよ書け」
と言われる程度には、
面白かったようです。
初めての方のために、
PART1の、アーカイブを載せておきます。
「そうさ。 どうせアンタはロクな恋愛なんてできない業をかかえてるんだ。 穂高くらいの人間でないと、まっとうな恋愛なんぞできないだろ?」
夏子先生は、あの嫌ぁな感じのニタニタ顔で、私の目の奥を覗き込む。
「でも、なっちゃん。 みひろちゃんは、俺にまったくなびく気配はないね。 どうする?」
と、答えた。
「おやおや? どんな女でも意のままだとか、さっき豪語してたじゃないか?
どうするもこうするもないだろう?
こんな地味な女ひとり転がせないで、何が恋愛の教祖だよ」
夏子先生は、さらに辛辣な言葉で穂高さんを叱咤激励する。
「もっと、本気出して口説けばいいじゃないか。
穂高、おまえには無理なのかい? コイツは失恋したてだし、あんがいコロッとおまえになびくかもしれないよ?」
「母さん! もういい加減にしろよ~」
夏生さんがあきれ顔で母親を諭し始めた。
「身も心も疲れ切っている井上さんに、そんな強制見合いみたいなこと。母さんホントに非常識だよ。
それに穂高にも、ヘンなことをけしかけるなよな。
井上さんが穂高を好きになるとしても、こんな押しつけがましい感じじゃなくて、自然な成り行きにまかせればいいじゃないか」
諭すように語る夏生さんに、夏子先生と穂高さんは顔を見合わせ、お互い、呆れたような笑顔を浮かべた。
その意味が、私にも痛いくらい理解できて、思わず縮こまる。 この二人には、きっと私の、夏生さんへの恋慕も見えているに違いない。
そんな、身の置きどころのない私の気配を察したのか、意外にも穂高さんが口を開いた。
「そうだな。俺も『井上さん』に気に入ってもらえるように頑張るよ。 年上の女性は嫌いじゃないし。 よく見れば可愛いしな」
場の空気を変えるような明るい声でそういうと、すっと右手を差し出した。
「こんな出会いだったけど、これからもよろしくね。 お互い、まずは良きライバルとしてやっていこうじゃないか」
「あ、はい……」
思わずその手を握り返す。 そのひんやりと冷たい手は、まるで陶器を思わせる。きめ細かく、あくまで白い肌。 確かにどんな女性でも、誘惑できそうだな、とは思う。
自由自在に邪蛇を操る『男性』。
性別こそは違えど、あの技術が私に身につくものならば「当たり前のしあわせ」を望める日が、いつかくるかもしれない。 そういう意味では学ぶことが、おおいにあると思う。
ただ、穂高さん自身の人間性や精神性に、あの邪蛇が影響していないはずがない。
どのように打ち解ければいいのか。 どのように振る舞えば、この人を怒らせないで済むだろうか。 あんなに飼い慣らされた邪蛇が、こちらに向かって飛んできたときには、ひとたまりもなく私が壊れるであろうことも想像がつく。
この男性は、ほんとうに危険なひとなのだ-------。
そんな心を見透かしているかのように穂高さんは、また、慈愛溢れるアルカイックスマイルで私に視線を注いだ。
「いいんだよ。そんなに警戒しなくても。 あくまで力づく、強引な襲いかたはしないからね。
それに、なっちゃんの愛弟子なら、俺たちは兄妹弟子だろ?」
「え?」
「みひろちゃん、さっき言ったじゃないか。俺が『良きライバルとしてやっていこう』っといったら、『はい』ってさ。 今日の目的は、これで達成されたね! なっちゃん」
「そうだねぇ。穂高もあんがい、人たらしになってきたじゃないか」
「え?」
私が混乱して、目を白黒させていると、夏生さんもほっとしたように話し出した。
「井上さんが、ウチで母と一緒に居てくれるなら、僕の仕事も少しは減りそうです。 ホントにウチの母は、人使いが荒くて困ってたんですよね。 井上さんは、看護師としても優秀だと看護師長さんにも聞いていますから、僕も本当に安心です。 怪我人や病気の人も中にはいますから、そんな方たちを任せられるのも心強いです」
「え~っと、あのぉ……」
しまった! と思ったがもう、後の祭りかもしれない。もう、後の3人はすっかり私が弟子入りしたという前提で話を進めている。 なんだか、どんどん事態がややこしくなってきたような気もするが、他に行くところもない。ならここで、毒食らわば皿まで、頑張ってみるか。
そうして私は、夏子先生の元で、明日から宝龍庵での修行を始めることになったのだった。
PART2 終
ここまでご愛読くださった皆さま方、ありがとうございました❤