「百年の孤独」がベストセラーと聞いた時、え、なに、世界は滅ぶの?と思うほど驚いた。
それはともかく、本屋でひとめぼれで購入。
登場人物の一人、アンヘル神父は前任としてマコンドにいたという設定で(p68)、ママ・グランデの葬式にでてくる人物の名前がでてきて(p67)、モンティエル夫人の住居はママ・グランデが住んでいたという設定(p134)。
また舞台になっている町スクレは「予告された殺人の記録」の舞台でもある(解説p290)。
さらに解説によると、本作は執筆中に膨大なページ数になり、登場人物の一人を別の物語に分けることになったという。
それが「大佐に手紙は来ない」。
ほかの作品と結びついている。
本作。
解説によると本作は、構成が甘く完成度が低い作品とされているらしく、マルケス自身もできがあまり良くないと考えていたらしい。
えー!私はとても面白かった。
とにかくわかりやすい説明がないので、独特な緊張感がある。
何かが過去にあった。おそらく政変。そして殺戮。
敵対していた当事者たちの生き残りが、そのまま生活しているらしい。
緊張関係の中、あちこちでビラが貼られる(内容は一切触れられない)。
ある者は秩序を破壊するとビラのことを気にし、ある者は気にも留めない。ある者はビラと関係しているのかもしれない。
治安を守るべき警官に元犯罪者が混じり、町長は元警部補。
司法関係者がかつて突然殺されたらしい(セリフでさらっと出てくるだけ)。
正当性がはっきりしない暴力的支配が行われている。
そもそも物語は、意味するところが明かされない殺人から始まる。
後半の戒厳令のような状態も、結局、どうなったかよくわからない。
何もかもが曖昧。
読んでいる最中は、スクレの住民が感じているに違いない不気味で不安な気持ちを味わうことになる。
構成の甘さとされている点、完成度が低いとされているところが、逆に魅力になっているように思う。
本当に面白かった。
マルケスっぽいなと思ったのが、「サルの自慰」(p54)。
そんなのって、本当にあるのか?という。
Marquez, GG: La Mala Hora. 1966
寺尾隆吉訳:悪い時 光文社古典新訳文庫、東京、2025