石井先生がお考えのフランス的思考の特徴
第一章はサド
知らなかったのは七年戦争に従軍していたこと(p16)。この経験は後の彼の思想に影響したのだろうか?
残虐描写を凌駕する哲学談義の多さが特徴だが(例に出されるのは「悪徳の栄え」 p39)、その構造は哲学議論・残虐描写の繰り返しで、構造も内容も同じ(p40)。
その思想は・・・
徹底した相対化。
石井先生は「絶対的相対主義」と表現なさる(p41)。
たとえば「己の欲せざることを他人になすな」は”自らに危害が及ばないようにという社会的安全弁に過ぎず、自然にある快楽の追及に忠実であるべきである。だから何をしてもいいのだ”(p41-43)。
あるいは”人間は生まれてから不平等だが、それがすでに強者が弱者から盗んでいるのだ。窃盗は原初の盗みから派生する不可避なもので、不平等を解消するための窃盗は当然の権利である。罪にするのはおかしい”(p45-46 強者側にたったり弱者側から権利を主張したりで、中学生のようだ)。
もう一つは、すべてを自然に還元すること。
当然、ルソーからの影響がある(p47-49)。
こうして、自由・博愛・平等のうち、己の自由だけを主張し、残りの2つを暴力的に否定する(p51)。
石井先生は、このような思想の行き着く先は「孤独・孤立」だろうと指摘なさる。
ブランショはサドの思想を「利益と全面的エゴイズムの哲学」と呼び、登場人物を唯一者l'uniqueとしている(p52-53)。
そして、「唯一者が進む世界は砂漠」だと喝破しているという(p60 自己愛者の内面をズバリ指摘している)。
サドの思想は、自然状態の不平等を明晰透徹した理性で考えた、非合理的合理主義あるいは合理主義的非合理主義だと、石井先生はまとめている(p59)。
石井洋二郎:フランス的思考 野生の思考者たちの系譜 中公新書、東京、2010